中高年の孤独感:「メンバーシップ型雇用」に基づく「無成果主義」が通用しなくなった「焦燥感」の裏返しなのでは?

日経新聞に以下の記事が出ていました。去年と今年を比較して若者の孤独感は改善したけど中高年は悪化した、逆に交流頻度は若者で悪化したけど中高年は改善したと読み取れます。そして「40~50代の孤独感が高まっている」としています。どうしてでしょうか?

孤独感40~50代で顕著 リモートなじめず生産性に影響も (2021.12.31 日経新聞)

新型コロナウイルス禍で40、50代を中心とする働き盛りの「孤独感」が、他の世代よりも深刻さを増している。テレワークの拡大などに伴いコミュニケーションの手段が変わるなか、対面中心の意識から脱しきれないことなどが背景とみられる。孤独感に伴う経済損失について英国では年間約5兆円との試算もある。生産性などに与える影響は軽視できず、官民を挙げた対策が不可欠だ。

日経新聞に書かれていること

  • 若い世代は感受性の高さなどから孤独感がより高めに出る傾向がある
  • 40-50代:業務上のコミュニケーションがやりにくいというストレスなどが、じわじわとメンタルをむしばんでいる
  • 50代男性:形はつながっているけど、心はつながっていない
  • 欧米では家庭や職場以外の「第3の場所」をつくる支援が進む。家庭と職場ではないストレスをため込まない場所を指し、教会やカフェなどが想定されている。
  • 経済協力開発機構(OECD)が05年に公表した調査では、日本は友人や同僚、他のコミュニティーの人と「ほとんど付き合わない」とした比率は15.3%で、加盟国中トップとなった。

どうでしょう。新型コロナ⇒リモートワーク⇒慣れない仕事⇒中高年の孤独感⇒支援が必要 の流れですよね。これって、新型コロナを犯人にしていいんでしょうか?もちろん大きな要因ではあります。でも、新聞で書いているのは会社員(サラリーマン)の話です。

ではサラリーマンって何でしょうか。

サラリーマンとは (ウィキペディアより)

サラリーマン(英: office worker / 和製英語: Salaryman)は、雇用主からSalary(俸給)を得て生活している者、または、そのような給与所得者によって構成された社会層をいう。リーマンと略されることがある。明治期に生まれた和製英語であり、男性をイメージさせるため、女性に対してはOLやキャリアウーマンなどと呼び区別する場合もある。

ウィキペディアにもあるように和製英語であり、日本独自の言葉です。経営者や投資家も同じ孤独感をかみしめているのでしょうか?僕は違うと思います。コロナ禍で産業が大ダメージのような報道をされる傾向にありますが、国勢調査で宿泊・飲食・サービス業に従事する就業者は全体のわずか5.5%です。日本の株価は年末終値としては1989年のバブル期のピーク以来32年ぶりの高値水準となっています。このような状況のなか、投資家さんにおいては「内心大はしゃぎ」なんではないでしょうか。

中高年サラリーマンの孤独感の背景は?

ずばり、雇用のパラダイムシフトだと思います。日本の雇用は戦後、新入社員一括採用、年功序列賃金、企業内組合、終身雇用というローカルルールの「日本的経営」で維持されていました。

そういった中で90年代から職能給、職務給の議論が巻き起こりました。

職能給と職務給(私の考え方

職能給は従業員個人の「職務遂行能力」を基準とした賃金制度です。日本に従来からある年寄りに有利な人事評価に基づく給与制度と言えます。評価は「知識」や「経験」、職務に必要な「技能」「資格」「リーダーシップ」「コミュニケーション能力」「ストレス耐性」そして「会社への忠実さを示す残業時間」で下されます。職能給は「終身雇用」と「年功序列」を前提としているため、成果にかかわらず勤続年数に応じて賃金が上がる側面があり、特段取り柄のない人でも、50・60代のおっさんになるとおのずと高給になる傾向があります。また、未経験の職種に異動しても基本的には賃金レベルは下がらないため、部下に仕事を押し付け、上司にへつらう無難なおっさんには最適な給与体系と言えます。一方で、能力のある女性や若手従業員は実力や成果に見合った給料を得にくいため、「やってらんねーよ!」と早期離職が懸念される給与体系でもあります。

一方、職務給は 「職種や業務の専門性」を重視して給与を支払う賃金制度です。グローバルスタンダードな「成果主義」や「同一労働同一賃金」という認識とマッチしています。女性や若手従業員であっても難易度や責任の度合いが同じ職務に取り組んでいれば、勤続年数に関係なくおっさんと同一の賃金が支払われます。このタイプにマッチする従業員は多くの企業で「専門職」と呼ばれ、出世することはありません。欧米では当然の職務給ですが、日本で導入している企業は職能給大好きななおっさんの弊害からか、少ないのが現状のようです。

日本特有の「サラリーマン」は「職能給」のたまものだと思います。しかし、世の中の流れは間違いなくグローバルスタンドに向かいます。「成果主義」や「同一労働同一賃金」の流れです。

コロナ禍における「成果主義」について

コロナ禍での大きな変化にテレワークがあります。これは職能給体系の上司にとって非常にやりにくいシステムです。テレワーク中にZoomで何とか部下と打ち合わせをしても、それからが大変です。

  • 資料を作ってもらいたいけど、具体的にメールで指示してくださいとか言われて面倒
  • そもそも送りたい資料をメールに添付できない
  • 部下から受け取ったデータをどこに保存すればいいかわからない
  • 資料の確認と修正を依頼されても赤ペンが使えないので不便
  • 修正のために文字を入力してみたらチカチカしたりクルクル回ったりする(PowerPointの資料)

こんなことが1年も続けば、デジタルネイティブ世代の部下はどう思うでしょう。「あ、この上司『成果主義』の脱落者だったんだ」と身バレするのも当然ですね。

中高年サラリーマンの「孤独感」は、今までの「職能給」に基づく「無成果主義」ではやっていけなくなった「焦燥感」の裏返しなのではないでしょうか。

一方、若手サラリーマンにとって、テレワークは横のつながりを得やすい仕事のやり方です。同僚にわからないとこを教えてもらうのも会社支給のPCではなく、LINEやTwitterでつぶやけばいいのですから。

衰退する「メンバーシップ型雇用」

職能給・職務給とセットで議論される雇用体系にメンバーシップ型雇用とジョブ型雇用があります。

メンバーシップ型雇用は年功序列と終身雇用を前提とした雇用スタイルで、職能給体系の下、維持されてきました。 長期的な人材育成が可能、柔軟な異動・配置が可能と言ったメリットはあるけれど、生産性が低いとか専門性が上がらないというデメリットもあります。

一方、ジョブ型雇用とは、仕事に対して人を割り当てる雇用システムで、欧米では一般的な雇用システムです。採用時に「職務記述書(ジョブディスクリプション)」で職務・勤務地・労働時間・報酬などを明確に定め、雇用契約を結びます。メリットとして専門性の高い人材確保が可能となりますが、反面離職率が高くなる傾向にはあります。

コロナ禍の今、経営側から見てどちらの雇用システムが求められるでしょうか。僕は「ジョブ型雇用」だと思います。昭和の時代に比べ、情報伝達速度は比べ物にならないほど速くなり、企業の寿命は短命化(東京商工リサーチ調べでは2020年に倒産した企業の平均寿命は23.3年(前年23.7年)で、2年連続で前年を下回る)しています。一方で全く新しい商品やサービス(テクノロジーの世界だけでもAR,VR,IoT,Maas…ときりがない)携えて登場してくる企業が急成長しています。

雇用延長の流れもあり、データ上では今や一人の従業員(勤続40年)を会社(寿命30年未満)では雇用できない状況となっています。

このような状況のなか、「長期的な人材育成」に適したメンバーシップ型雇用は衰退するでしょう。当然専門性の高い人材確保が可能なメンバーシップ型雇用に移行するものと考えられます。

中高年サラリーマンの「孤独感」はこの点にも起因するのです。

僕らはどこに向かえばいいのか

情報を集め、集約してアウトプットする。これがインターネット以前の仕事のやりでした。そして尊いと言われてました。組織では役割分担して時間をかけてこの作業を行ってきた。でもこんなことは今ではネットでググれば短時間で一人でもできます。この能力が情報リテラシーです。

学生時代からインターネットやパソコンのある生活環境の中で育ってきたデジタルネイティブの30代以下のZ世代にとっては当たり前にできることが、中高年にはできません。

WHOがまとめた世界183の国と地域を対象とした中央年齢(中央年齢は、上の世代と下の世代の人口(人数)がちょうど同じになる年齢)日本の中央年齢は、45.9才で、世界ランキングの順位は1位です。http://top10.sakura.ne.jp/WHO-WHS9-88.html#map世界平均は28.2歳と大きな開きがあります。日本は世界で最も高齢化が進んだ国ですが、世界の大半の人々は30代未満の僕らの世代の子供の人たちなんです。

これからの中高年は情報リテラシーを磨く努力以上に、Z世代とのコミュニケーションを円滑にしなければ、、ますます「孤独」に陥ることでしょう。

僕はもうすぐ定年という「賞味期限」の宣告でこの泥船から降りるんですけど。

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