鬼人幻燈抄 21話「願い(後編)」感想~叶わぬ願いと選んだ別れ、それぞれの旅路

こんにちは!びわおちゃんブログ&アニオタWorld!へようこそ。

『鬼人幻燈抄』第21話「願い(後編)」、皆さんは、いかがでしたか? 叶う願い、叶わぬ願い、そして未来へ託す願い――。それぞれの想いが交錯し、あまりにも切なく、そして美しい結末を迎えましたね。

もし、出会う時代や状況が違っていたら、彼らは違う未来を選べたのでしょうか。そんな「もしも」を考えずにはいられない、切ないすれ違いが描かれました。それは甚夜にとって、土浦も、畠山康秀も、そして何より、おふうとの関係において、深く胸に突き刺さります。

好きだからこそ、そばにいない選択をする。相手の生き方を尊重し、依存ではなく、互いの未来を想う。そんな、涙が出るほどに尊い関係性には、ただただ感嘆するばかりです。

今回は、時代の大きなうねりの中で、登場人物たちが下した決断と、その願いの行方を丁寧に読み解いていきたいと思います。江戸編のクライマックス、それぞれの「出会いと別れ」が描く物語の深淵へ、一緒に潜っていきましょう。

第21話のあらすじ:雨夜に散った二つの魂

激しい雨がすべてを洗い流そうとするかのように降り注ぐ中、甚夜と土浦の死闘は、単なる力と技の応酬を超えた、魂の領域へと踏み込んでいきます。異能が共鳴し、互いの記憶を垣間見た二人は、そこに悲しいほど似通った孤独を見出すのでした。

哀しき鬼の回想、愛ゆえの裏切りと覚醒

物語は、土浦のあまりにも悲痛な過去の回想から静かに幕を開けます。陽光の下、美しく咲き誇るカキツバタのほとりで、彼が心を寄せた一人の女性との、穏やかだったはずの時間。しかし、その幸せは、人の心の弱さによって、無残にも引き裂かれてしまいます。

「あたし、あんたが好きだよ」

切なげに紡がれたその言葉は、愛の告白であると同時に、彼を死地へと誘う非情な合図でした。直後、彼の背中を無数の槍が貫きます。「鬼め!」という罵声。信じていたはずの温もりからの、冷たい裏切り。血の海に倒れ、薄れゆく意識の中で土浦は渇望します。「こんなところで死にたくない」。その強烈な生への執着こそが、彼を人ならざる「鬼」として、絶対的な力と共に覚醒させたのです。

復活した土浦の力は、村人たちを蹂躙します。しかし、彼を裏切ったはずの女は、逃げずにそこにいました。「鬼になってもあんたはあんただから」。その言葉は、偽りのない本心でした。彼女もまた、村八分にされることを恐れた両親に脅され、愛する人を裏切るしかなかったのです。けれど、強大すぎる鬼の力は、あまりにも繊細な人の想いを理解できません。彼女を慈しむように、守るようにと包んだはずの巨大な手のひらは、その脆い体をあまりにも容易く握り潰してしまいました。

「違う…」。彼の慟哭は、雨音に掻き消されて誰にも届きません。守りたかったはずの愛する者を、この手で壊してしまった絶望だけが、彼の魂に深く刻み込まれたのでした。

魂の共鳴、鬼の力の正体

場面は現代、甚夜との戦いに戻ります。甚夜が「同化」を試みたことで互いの記憶が流れ込み、二人は言葉なくして互いの過去を理解しました。

「貴様は、俺と同じだな」
「かもな」

同じように大切なものを守れず、人ならざる者となった二つの魂。そこに憐れみにも似た共感を見出すと同時に、だからこそこの戦いからは決して退けないのだと、互いに悟るのでした。甚夜は、これまでに出会い、その願いを己が身に取り込んできた鬼たちの名を呼びながら、土浦に斬りかかります。

人目を避けて生きたかった茂助。誰よりも速く夫のもとへ行きたかった、はつ。幸福の庭に帰りたかった、おふう。たった一つの感情を隠したかった、夕凪。

彼らの願いを辿りながら、甚夜は一つの真理にたどり着きます。

「今になってわかった。鬼の力とは才能ではなく、願望だ。人は負の感情を持って鬼に堕ちるが、鬼は叶わぬ願い故に力を得る。あるいは、その執着こそが鬼の素養なのかもしれんな」

そして、土浦の魂の奥底にある、本当の願いを見据えて問いかけます。「だからわかる。お前は強くなりたかったのではない。土浦。なぜ壊れない体を欲した」。

決着、そして託された願い

土浦の脳裏に、主君・畠山康秀の言葉が蘇ります。「鬼と武士は同じ時代に打ち捨てられようとしている。我らは旧世代の遺物。いわば同胞だ」。康秀への忠誠こそが、彼の生きる意味のすべてでした。

しかし甚夜は、それすらも「嘘だ」と断じます。自らの弱さから目を背け、すべてを斬り捨てて作り上げた偽りの強さ。それに、いまだ斬るべきものに迷い続ける自分の弱さが負けるはずがない、と。

最終決戦。疾駆を駆使し猛攻を仕掛ける甚夜の刃が、土浦の体を切り刻むたび、彼の封じ込めた記憶が溢れ出します。愛した女は、脅されていた。彼女の両親が土下座して謝罪する姿。「もし壊れない体なら、傷つくことを恐れないで済む。もし壊れない体なら、訪れる死に怯えなくていい。もし壊れない体なら、最後まで信じてやれたのに」。彼の頬を伝うのは、雨か、血か、それとも決して癒えることのない後悔の涙か。

そしてついに、彼は本当の願いを口にします。

「俺はただ、誰かを信じてていたかった」

仰向けに倒れ、甚夜を見上げる土浦の表情は、不思議と穏やかでした。彼は自ら手を差し出し、甚夜に「不抜」の力を託します。「貴様には感謝している。死に場所を、悪くない死にざまを与えてくれた」。甚夜はその手を取り、彼の永い苦しみに終止符を打ちました。

その足で畠山康秀の邸宅へ向かった甚夜は、主君の真の願い…「武士として、時代の終わりと共に誇り高く死ぬこと」を叶え、江戸での最後の戦いを終えるのでした。

第21話「願い(後編)」の解説:願いが織りなす光と影

この第21話は、物語の核心である「願い」というテーマを、様々な角度から深くえぐり出す、まさに圧巻のエピソードでした。ここからは、作中に散りばめられた象徴的なシーンやセリフを、さらに深く読み解いていきたいと思います。

物語を暗示するカキツバタ~「幸せは必ず来る」という皮肉

冒頭、土浦の回想シーンで印象的に描かれたカキツバタの花。この紫色の美しい花には、「幸せは必ず来る」「思慕」「高貴」といった花言葉があります。特に「幸せは必ず来る」という言葉は、万葉集で恋人を待ち焦がれる歌に由来すると言われています。

しかし、この回想シーンで描かれたのは、その花言葉とは真逆の、裏切りと絶望でした。幸せを願ったはずの場所で、土浦は愛する人に裏切られ、すべてを失います。この美しい情景と残酷な現実の対比は、あまりにも強烈で、この物語が内包するどうしようもない「ままならなさ」を象徴しているかのようです。

ですが、物語はここで終わりません。土浦は、最後に自らの本当の願いに気づき、ある意味での「救い」を得て逝きました。畠山康秀は、望んだ「死」という幸福を手にしました。そして、この後語られる甚夜とおふうは、別れを選びながらも、未来への確かな一歩を踏み出します。

そう考えると、「幸せは必ず来る」という花言葉は、単純なハッピーエンドを約束するものではなく、「たとえどのような形であれ、魂が求める本当の幸福に、いつか必ずたどり着く」という、この物語全体のテーマそのものを暗示していたのかもしれません。それは時に、死であったり、別れであったりするのです。なんと奥深く、そして切ないメッセージなのでしょう。

土浦が求めた「壊れない体」の真意

甚夜が問いかけた「なぜ壊れない体を欲したのか」。これは、土浦という鬼の本質を突く、非常に重要な問いかけでした。彼はただ強くなりたかったわけではありません。彼が本当に欲しかったのは、物理的な強さではなく、心を壊さずに済むための鎧だったのです。

体が大きいというだけで疎まれ、信じた人に裏切られる。そんな経験が、彼に人間不信と、傷つくことへの極度の恐怖を植え付けました。もし、どんな攻撃にも傷つかない体があれば、他人の裏切りを恐れずに済む。もし、決して壊れない頑丈な器があれば、愛する人を疑うことなく、最後まで信じぬくことができるかもしれない。

彼が愛した女性をその手で握り潰してしまったのは、力の制御が効かなかったからだけではないでしょう。彼女の愛を信じきれなかった、自らの「弱さ」が生んだ悲劇でもあります。その罪悪感と後悔から逃れるため、彼は「壊れない体」という願いにすがり、自分を騙し続けてきたのです。その願いの根底にあるのは、強さへの渇望ではなく、「ただ、誰かを信じたい」という、あまりにも人間的で脆い祈りだったのです。

甚夜の「負けてなるものか」~弱さを認める者の強さ

土浦が自分に似ていると感じながらも、甚夜は「違ったな」と言い、こう続けます。「すべてを斬り捨て、自分を騙して作り上げたお前の強さなどに。いまだに斬るべきを迷う私の弱さが負けてなるものか」。

これは、本作のテーマを貫く、非常に重要なセリフです。土浦は、過去の傷や弱さから目を背け、「忠誠」という鎧で心を固め、偽りの強さを築き上げました。一方の甚夜は、170年もの間、罪の意識に苛まれ、刀を振るう意味に迷い、苦しみ続けています。その姿は、一見すると弱く、不完全に思えるかもしれません。

しかし、その「弱さ」こそが、甚夜の真の強さの源泉なのです。迷い、悩み、痛みを抱え続けるからこそ、彼は他者の痛みや願いを理解し、受け入れることができる。鬼でありながら、人間としての心を失わずにいられるのです。「同化」という彼の異能は、まさにその弱さ、他者を受け入れる度量の象見と言えるでしょう。すべてを切り捨てて孤独に立つ強さよりも、弱さを抱えながらも誰かと繋がろうとする強さの方が、遥かに尊く、そして強い。甚夜の言葉は、私たちにそう語りかけているようです。

甚夜が語る「ましな死に方」とは

土浦に勝利した後、甚夜は「多分私たちは弱くて良かったんだ」「もしもっと弱かったなら、多少はましな死に方ができただろうよ」と呟きます。

ここで言う「ましな死に方」とは、決して安楽な死を意味するものではありません。それは、人間としての生を全うし、愛する人々に看取られながら迎える、穏やかな最期のことではないでしょうか。

亡くしたものを取り戻したい、失ったものに執着する。その強すぎる願いが、彼らを人ならざる鬼へと変えました。中途半端に強くなろうとしたがために、永劫とも思える孤独な時間を生き、罪を重ねる運命にとらわれてしまった。もし、もっと弱く、運命に抗うことを諦められていたなら。人間として限りある生を受け入れ、ささやかな幸せの中で死んでいく…そんな「普通の死に方」ができたかもしれない。

それは、170年という長すぎる時を生きてきた甚夜だからこその、深い諦念と、叶わなかった人生への哀惜が込められた、あまりにも切ない言葉なのです。

土浦が気づいた「自分の願い」の正体

土浦は死の間際、「俺は自分の願いに気付くことができた」と、満足げに語ります。彼が気づいた「自分の願い」。それは、畠山康秀への忠誠のさらに奥底にあった、**「誰かを心から信じ、そして信じた相手に看取られて死ぬこと」**だったのではないでしょうか。

彼は、裏切られることを恐れ、誰も信じることができなくなっていました。だからこそ、「忠誠」という絶対的な関係性に縋るしかなかった。しかし、甚夜は違いました。甚夜は、土浦の過去も、弱さも、偽りの強さも、そのすべてを理解した上で、真正面から彼と向き合ってくれた。初めて、自分のすべてを受け止めてくれる存在に出会えたのです。

だからこそ彼は、自ら「不抜」の力を差し出しました。それは、甚夜という存在を心から「信じた」証。甚夜に自分の願いを託し、その腕の中で逝くことは、彼にとって最高の死に様であり、遂に叶えられた本当の願いだったのです。「悪くない死にざま」という彼の言葉には、長い苦しみの末にたどり着いた、魂の安らぎが満ちていました。

生き方を曲げられない者たち~それぞれの矜持と哀しみ

『鬼人幻燈抄』の登場人物たちは、皆どこか不器用で、一度決めた生き方をなかなか曲げることができません。その頑固さが、彼らの魅力であり、同時に物語に深い哀しみをもたらしています。

不器用な魂たちの肖像

  • 甚夜: 妹・鈴音を自らの手で討つという、170年前に立てた誓い。それが彼の存在理由そのものであり、途中で投げ出すことも、他の生き方を選ぶことも、彼にはできません。おふうという安らぎの可能性を前にしても、彼は茨の道を行くことをやめられないのです。
  • 土浦: 彼は「忠誠」という生き方しか知りませんでした。それが自分の本当の願いではないと薄々気づいていながらも、それ以外の生き方を選ぶことができなかった。自分を騙してまで、その不器用な生き方を貫こうとしました。
  • 畠山康秀: 彼の不器用さは「誇り」と言い換えることができるでしょう。武士の世が終わりゆく中で、時代の変化に適応して生き長らえるのではなく、武士としての矜持を胸に、旧時代と共に散ることを選びました。それは、彼にとって唯一譲れない生き方だったのです。
  • 白雪: 巫女としての使命と、甚太への恋心。その間で、彼女は里を守るという「いつきひめ」としての生き方を優先しました。自らの幸せを犠牲にしてでも、その生き方を曲げなかった彼女の決断が、すべての悲劇の始まりでもありました。

彼らの不器用な生き様は、時に痛々しく、もどかしくもあります。しかし、自分の信念を貫こうとするその姿は、ある種の気高さと美しさを感じさせずにはいられません。私たちは、そんな彼らの不器用さに、自分自身の姿を重ねて、心を揺さぶられるのかもしれません。

夫婦で蕎麦屋の夢と、選んだ別れ~甚夜とおふう、魂の交錯

土浦との激しい戦いを終え、一つの時代に区切りをつけた甚夜。彼が戻った蕎麦屋「喜兵衛」で待っていたのは、この第21話の、そして江戸編のクライマックスとも言える、おふうとのあまりにも切なく、美しい別れの場面でした。ここは、二人の繊細な心の機微を、ゆっくりと丁寧に追いかけていきたいと思います。

おふうからの提案~「鬼蕎麦」に込められた願い

「江戸を離れようと思う」。鬼としての噂が広まることを懸念し、そう告げる甚夜に、おふうは思いがけない提案をします。

「お父さんが言っていたように、このまま蕎麦屋を営むというのは選択肢にないでしょうか。屋号は、そうですね、「鬼蕎麦」なんてどうでしょう。鬼の夫婦が営む蕎麦屋、面白いと思いませんか?」

これは、事実上のプロポーズです。しかし、単なる恋心から出た言葉ではありません。そこには、鬼である自分たちが、人の中で肩を寄せ合い、ささやかでも確かな幸せを築いていけるのではないか、という未来への淡い、しかし切実な「願い」が込められています。そしてそれは、復讐という宿命に囚われ続ける甚夜の魂を、温かい日常へと引き留めようとする、彼女なりの「救い」の申し出でもあったのです。

揺れる心と、差し伸べられた手~二人の決定的なすれ違い

おふうの言葉に、甚夜の心が揺れます。

「悪くはないかもしれんな」

その呟きには、長すぎる旅に疲れた彼の、束の間の安らぎへの憧れが滲んでいました。鬼としてではなく、ただの男として、愛する人と穏やかに暮らす未来。一瞬、彼もその夢を見たのかもしれません。しかし、彼はその夢に身を委ねることはしませんでした。

「やっぱりできませんか」

彼の沈黙に、おふうは寂しげに微笑みます。甚夜は、彼女の想いを真正面から受け止めた上で、それでもなお、自らの生き方を変えられないことを告げます。「今さら生き方は曲げられない。お前だってそれを承知で言ったのだろう」。

そして彼は、おふうに手を差し伸べます。「一緒に行くか?」。しかし、この手は「鬼蕎麦屋をやろう」という彼女の願いに応えるものではありませんでした。それは、これからも続く、彼の孤独で過酷な旅路への誘いだったのです。ここに、想い合いながらも決して交わることのない、二人の決定的な「すれ違い」が、残酷なまでに描き出されています。

手を取らない理由~おふうの自立と、本当の強さ

しかし、おふうはその手を取りませんでした。彼女の口から語られたのは、この別れが、決して悲しいだけのものではないことを示す、強く、凛とした決意の言葉でした。

「駄目ですね、私は。…ここであなたの手を取ってしまったら、私はまた寄りかかってしまう。それじゃあきっと幸福の庭に逃げ込んだあの頃と変わらない。そんなの悔しいじゃないですか。だから、先に誘ったのは私ですけど、手は取りません。まずは一人で立てるようになろうと思います。そうじゃないと、あなたの隣にいても寂しいだけだから」

なんと強い女性なのでしょう。彼女は、甚夜に守られ、依存する関係を自ら拒絶したのです。かつて、悲しみから逃れるために「幸福の庭」という結界に閉じこもった自分との決別。そして、いつか彼の隣に立つときには、対等な存在でありたいという、誇り高い願い。彼女のこの選択こそが、本当の意味での「自立」であり、彼女が手に入れた「強さ」の証明でした。

おふうが甚夜に教えた「救い」

この別れの直前、甚夜はおふうにこう語っています。「だが間違えたままでも救えるものがあるとお前が教えてくれた。だからもう少し迷ってみようと思う」。

これは、おふうという存在が、甚夜にとってどれほど大きな救いであったかを示す、何よりも雄弁な言葉です。復讐だけを使命としてきた彼の旅は、間違いだったのかもしれない。しかし、おふうと出会い、彼女を守り、彼女の笑顔に触れる中で、甚夜は「復讐の旅路の途中でも、確かに救えるものがある」という事実を知ったのです。

幸福の庭から彼女を連れ出したこと。夕凪の秘めた想いを汲み取ったこと。彼の行いは、意図せずして誰かの心を救っていました。そのことを、おふうの存在そのものが彼に教えてくれた。だからこそ彼は、答えの出ない問いに「もう少し迷ってみよう」と思えるようになったのです。おふうは、彼の凍てついた心を溶かし、再び前に進むための温かい光を与えてくれた、まさしく「救い」の女神だったのです。

大人の別れ~いつかまた逢う日まで

「お互い、不器用だな」「本当ですね」。そう言って笑い合う二人。この場面は、大人の恋愛と別れを経験したことがある人なら、胸が締め付けられるほどに共感できるのではないでしょうか。

好きだから、一緒にいたい。でも、好きだからこそ、相手の生き方を尊重し、自分の足で立つことを選ぶ。依存ではなく、互いの成長を願うがゆえの選択。人生には、そんな涙が出るほど切なくて、同時にこの上なく尊い別れがあることを、この二人は教えてくれます。

出会いは一瞬のきらめきかもしれませんが、別れには、それまでに積み重ねてきた時間や想いの分だけ、複雑で豊かな感情が宿ります。甘さも苦さも、温かさも痛みも、そのすべてが凝縮されている。甚夜とおふうの別れがこれほどまでに私たちの心を打つのは、二人が短いながらも濃密な時間を共に過ごし、互いの魂に深く触れ合ったからに他なりません。

去り際、おふうが問いかけます。「また、逢えますか?」。
それに対する甚夜の答えは、彼らしい、少し意地悪で、けれど誠実なものでした。

「さてなあ。だが互いに長生きだ。すれ違いこともあるだろう」

希望を持たせるような甘い嘘はつかない。けれど、「すれ違うこともあるだろう」という言葉には、永い時の中で再び道が交わるかもしれないという、かすかな可能性が滲んでいます。

「そこは、嘘でも『逢える』って言うところだと思いますよ」
「鬼は、嘘をつかないものだ」

この軽やかなやり取り。これこそが、二人の間に築かれた深い信頼関係の証です。重苦しくならず、互いに微笑みながら未来への扉を開ける。なんと美しい関係性なのでしょう。

「ではな、おふう」
「はい、いつか、また」

この「いつか、また」という言葉に、彼女のすべての願いが込められていました。それは、ただ待つのではなく、自分自身が成長し、再び彼の前に立ったときに、胸を張って「ただいま」と言うための、未来への約束なのです。

総括と次回への期待:時代の終焉と新たな旅立ち

土浦との壮絶な死闘、そしておふうとのあまりにも切ない別れ。第21話は、江戸という一つの時代に幕を下ろし、甚夜の長い旅路における大きな節目となりました。「願い」というテーマが、叶えられた願い、叶わなかった願い、そして未来へ託された願いとして、様々な形で描かれた圧巻のエピソードでした。

慶応三年、大政奉還―歴史の奔流と個人の物語

おふうと別れ、野茉莉を抱いて橋を渡る甚夜。その脳裏に浮かぶのは、かつてこの橋の上で交わした、ある少女との約束だったのでしょうか。彼が静かに「さよなら」と口ずさむと、まるで運命のいたずらのように、懐かしい面影とすれ違います。

そこにいたのは、すっかり美しい中年の婦人となった、奈津でした。隣には、彼女を優しく支える夫・善二の姿が。互いに気づきながらも、二人は言葉を交わしません。ただ一瞬、時が止まり、視線が交錯するだけ。しかし、その一瞬に、どれほどの想いが込められていたことでしょう。

奈津の帯に揺れる、可愛らしい福良雀の根付。

それは、かつて奈津が「簪と笄(こうがい)の和合」により甚夜を「お兄様」と慕った時のものです。彼女が今もそれを大切に身に着けているという事実が、過ぎ去った日々が甚夜にとっても奈津にとっても大切な時間であったことを、何よりも雄弁に物語っていました。

「懐かしい人に会いました。私が傷つけてしまった人です」という奈津の告白に、すべてを察した善二が「そろそろ店に帰りましょうか『奈津お嬢さん』」とおどけてみせる場面も、実に秀逸でした。それは、彼女の過去をすべて受け入れた上で、今、自分が彼女の隣にいるという、彼の深い愛情と優しさの表れです。

そして、ナレーションは静かに告げます。「慶応三年十月十四日、大政奉還」。長く続いた武士の世が終わりを告げ、新しい時代が幕を開ける。畠山康秀や土浦といった「旧世代の遺物」たちが、時代の大きなうねりの中でそれぞれの最期を迎えたように、登場人物たちの個人的な物語が、歴史という抗いがたい奔流と見事に交錯していく。この壮大なスケール感こそが、『鬼人幻燈抄』という作品の持つ、抗いがたい魅力なのです。

江戸編が終わり、甚夜の旅は「明治」という新たな時代へと続いていきます。彼の「もう少し迷ってみようと思う」という言葉が、復讐一色だった彼の心に新たな変化が生まれたことを示しており、一筋の希望の光のように感じられます。

彼の長い旅路の果てに、一体何が待っているのでしょうか。鬼として、そして一人の男として、彼は新たな時代とどう向き合っていくのか。そして、いつかまた、自分の足で立ったおふうと再会する日は来るのでしょうか。

想像は尽きませんが、今はただ、新たな旅立ちを迎えた甚夜の背中を、静かに見送りたいと思います。

『鬼人幻燈抄』の世界を深く味わう!待望の新刊&Blu-ray BOX発売

アニメも絶賛放送中、170年にわたる壮大な旅路を描く和風ファンタジー『鬼人幻燈抄』。ファン待望のコミックス&原作小説の最新刊が2025年9月10日に同時発売!さらに、物語の全てを収録したBlu-ray BOXも登場です。

【コミックス最新刊】鬼人幻燈抄 第9巻

里見有先生の美麗な筆致で描かれるコミカライズ版、待望の第9巻!
舞台は元治元年(1864年)、幕末の動乱期。甚夜のもとに舞い込んだのは、人斬りと化した鬼・岡田貴一を討ってほしいという依頼でした。歴史の大きなうねりの中で、甚夜は新たな鬼との死闘に身を投じます。アニメのあのシーンを漫画で追体験したい方、そしてその先の物語をいち早く見届けたい方におすすめです!

【原作小説最新刊】鬼人幻燈抄 文庫版 第10巻『大正編 夏雲の唄』

中西モトオ先生が紡ぐ物語の原点、文庫版の最新第10巻『大正編 夏雲の唄』が登場します。
南雲叡善の企みを阻止した甚夜でしたが、彼の故郷・葛野の記憶に繋がる「鬼哭の妖刀」が持ち去られてしまいます。失われた大切なものを取り戻すため、物語はついに大正編のクライマックスへ! 小説ならではの緻密な心理描写と重厚な世界観を、ぜひご堪能ください。

【永久保存版】鬼人幻燈抄 Blu-ray BOX

江戸から平成へ、甚夜の170年にわたる孤独な旅を描いたアニメ全24話。その全てを1BOXに完全収録したBlu-ray BOXで、感動の名場面を何度でも。高画質な映像美で蘇る壮大な物語は、まさに永久保存版。お手元でじっくりと『鬼人幻燈抄』の世界に浸ってみませんか。

☆☆☆☆☆今回はここまで。

👉使用した画像および一部の記述はアニメ公式サイトから転用しました。

TOP10入り継続中💦

あなたの「いいね💗」をお願いします!

にほんブログ村 アニメブログへ
にほんブログ村

【アニメ関連はこっちから】

アニオタWorld!の記事一覧



びわおちゃんブログをもっと見る

購読すると最新の投稿がメールで送信されます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です