名作アニメを週末一気見!『空の青さを知る人よ』~4つの愛が織りなす、あなたの物語~

こんにちは!びわおちゃんブログ&アニオタWorld!へようこそ。

風が少しだけ秋の匂いを運び始める頃、ふと、昔の夢や忘れていた恋心を思い出して、胸がキュッとなることはありませんか?大人になるにつれて、たくさんの現実を知り、賢くなったつもりでいても、心のどこかには、どうしようもなく青くて、不器用だったあの頃の自分が眠っているものです。

今回ご紹介するのは、そんなあなたの心の琴線に、優しく、そして時には激しく触れる物語。2019年に公開されたアニメ映画『空の青さを知る人よ』(通称:『空青』)です。

「『あの花』や『ここさけ』のチームが作った映画でしょ?」「あいみょんの主題歌が良かったよね」そんな声が聞こえてきそうです。もちろん、それも大正解。ですが、この映画の本当の凄みは、観終わった後に「なんだかよくわからないけど、すごく良かった…」という、一言では言い表せない複雑な感情の渦に、私たちを巻き込むところにあります。

なぜ、私たちはこの物語にこれほどまでに心を揺さぶられるのでしょうか?なぜ、感想がすぐには言葉にならないのでしょうか?

週末、少しだけ時間をとって、この切なくて不思議な「二度目の初恋」の物語に、どっぷりと浸ってみませんか?

『空の青さを知る人よ』とは?~秩父三部作、集大成の輝き~

まずは、この作品がどのような背景を持って生まれたのか、その骨格から見ていきましょう。

原作は「超平和バスターズ」~最強チームが紡ぐ物語~

『空の青さを知る人よ』の原作としてクレジットされているのは「超平和バスターズ」。これは、監督の長井龍雪さん、脚本家の岡田麿里さん、そしてキャラクターデザイナーの田中将賀さんという、現代アニメ界を牽引する3人のクリエイターによるユニット名です。

『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(あの花)、『心が叫びたがってるんだ。』(ここさけ)といった、私たちの涙腺を何度も崩壊させてきた名作たちも、このチームが生み出してきました。彼らの作品に共通するのは、思春期特有のヒリヒリとした感情の機微を、ファンタジックな設定の中で、どこまでもリアルに描き出す卓越した手腕です。

そして、この『空青』は、『あの花』『ここさけ』に続き、岡田麿里さんの故郷である埼玉県秩父市を舞台にした、通称「秩父三部作」の集大成とも言える作品なのです。

作品のテーマ~過去と現在、夢と現実の狭間で~

物語のキャッチコピーは「これは、せつなくてふしぎな、二度目の初恋の物語」。

山に囲まれた町で、姉のあかねと二人で暮らす高校二年生の相生あおい。彼女は、かつて姉の恋人だったギタリスト・金室慎之介に憧れて、ベースに明け暮れる毎日を送っていました。

そんなある日、彼女の前に現れたのは、13年前、姉と別れた当時の姿のままの18歳の慎之介、通称「しんの」でした。時を同じくして、町には大物演歌歌手のバックバンドの一員として、31歳になった現在の慎之介が帰ってきます。

過去からやってきた、夢と希望に満ち溢れた18歳の「しんの」。
夢に破れ、現実のやるせなさを抱えた31歳の「慎之介」。

この二人の慎之介と、姉妹であるあおいとあかねを軸に、物語は過去と現在が交錯する不思議な四角関係を描いていきます。10代の焦燥感と、30代の諦念。それぞれの世代が抱える普遍的なテーマが、この物語の大きな魅力となっています。

アニメ作品としての特徴~実写と見紛う風景描写~

本作の特筆すべき点の一つが、制作会社CloverWorksによる圧倒的な映像美です。舞台である秩父の風景は、まるで実写かと見紛うほど緻密に、そして詩情豊かに描かれています。

特に、音楽の演出が秀逸です。物語前半、あおいのベース演奏シーンの多くは、お堂や練習室といった「閉ざされた空間」で描かれます。それはまるで、彼女が抱える町の閉塞感を象徴しているかのよう。しかし、物語がクライマックスに向けて動き出す時、その音楽は閉塞感を打ち破り、空へと解放されていくのです。この映像と音楽によるカタルシスは、まさにアニメーションならではの表現の極致と言えるでしょう。

物語を彩る、忘れられない人々

『空青』の複雑な物語に、命を吹き込んでいるのが、個性豊かなキャラクターたちです。ここでは、物語の中心となる4人を紹介します。彼らの心の奥底に触れることで、物語はさらに深みを増していきます。

相生あおい(CV: 若山詩音)~閉塞感からの飛翔を夢見る少女~

本作の主人公の一人。17歳の高校二年生。姉のあかねと二人暮らしで、プロのベーシストになることを夢見ています。口癖は「泣いてないしっ!」。強気な態度の裏に、繊細で傷つきやすい心を隠しています。

両親を事故で亡くした後、自分のために姉のあかねが夢を諦め、地元に残ったことに負い目を感じています。だからこそ、一刻も早くこの「壁に囲まれた」盆地から飛び出して、姉を解放したいと願っているのです。彼女がベースを弾くのは、東京への切符を手に入れるため。しかし、その根底には、かつて姉の隣で輝いていたギタリスト・慎之介への淡い憧れがありました。そんな彼女の前に、憧れの対象そのものである「しんの」が現れたことで、彼女の日常と恋心は、大きく揺れ動き始めます。

声優を務めたのは、本作が声優初挑戦に近かった若山詩音さん。思春期特有のイラつきや焦燥感、そして不意に見せる弱さを見事に表現し、あおいというキャラクターに瑞々しい命を吹き込みました。

相生あかね(CV: 吉岡里帆)~妹のために全てを捧げた聖母~

あおいの姉。市役所に勤める31歳。13年前、両親を亡くしたことで、恋人だった慎之介との上京を諦め、たった一人で妹のあおいを育てることを決意しました。

周囲からは「良いお姉ちゃん」と慕われ、いつも穏やかな笑顔を絶やさない彼女ですが、その胸の内には、諦めた夢や恋への想いが静かに眠っています。しかし、彼女は決して自分の選択を不幸だとは思っていません。あおいの存在こそが、彼女の生きるすべてであり、幸せそのものなのです。

そんな彼女の前に、13年ぶりに姿を現した慎之介。かつての恋人との再会は、彼女が心の奥底に封じ込めていた感情を、静かに揺り動かしていきます。

演じるのは、演技派女優の吉岡里帆さん。妹を思う深い愛情と、大人の女性が抱える複雑な心情を、抑制の効いた繊細な演技で体現しています。

金室慎之介/しんの(CV: 吉沢亮)~過去の輝きと現在のやるせなさ~

あかねの元恋人で、あおいの憧れのギタリスト。声優は、同じく本作が本格的な声優初挑戦となった吉沢亮さんが務め、18歳の「しんの」と31歳の「慎之介」という、二つの役柄を鮮やかに演じ分けています。

しんの(18歳)
13年前、あかねと別れた当時の姿で、過去からやってきた「生き霊」のような存在。怖いもの知らずで、夢に向かって真っすぐに突き進む、まさに青春の輝きの象徴です。あかねを迎えに行くと約束した、あの頃の情熱を今も胸に宿しています。あおいの前に現れた彼は、彼女の良き音楽の師となり、そして淡い恋の対象となっていきます。

慎之介(31歳)
「ビッグになってあかねを迎えに行く」と豪語して上京したものの、夢に破れ、現在は売れない演歌歌手のバックでギターを弾いています。かつての輝きは失われ、どこか世慣れて、諦念を漂わせています。13年ぶりに故郷に帰ってきた彼は、変わらないあかねの姿と、かつての自分そっくりの「しんの」の存在に戸惑い、自身の過去と現在に向き合うことになります。

新渡戸団吉(CV: 松平健)~大物演歌歌手が繋ぐ縁~

慎之介がバックバンドを務める大物演歌歌手。物語の重要な局面で、登場人物たちの背中を押すキーパーソンです。演じるのは、なんとあの松平健さん。その圧倒的な存在感と深みのある声は、作品にユーモアと重厚感を与えています。

なぜ私たちは『空青』に心を掴まれるのか?~物語を解き明かす4つの「愛」~

さて、ここからが本題です。『空の青さを知る人よ』を観た後の、あの「一言では言い表せない感動」の正体。それは、この一本の映画の中に、少なくとも4つの異なる「愛」の物語が、見事に織り込まれているからだと、僕は考えています。

「姉妹の愛」「初めての恋」「大人の恋」、そして「自分自身への愛」。

これらの物語が、時に優しく、時に激しくぶつかり合い、複雑なハーモニーを奏でる。だからこそ、観る人は自分の経験や心境に最も近い物語に強く引きつけられ、他の物語の響きも感じながら、深く豊かな感動を味わうことになるのです。

一つずつ、具体的なシーンと共に、この4つの愛の形をじっくりと見ていきましょう。

あかねの「姉妹愛」~献身の裏に隠された本当の幸せ~

この物語の根幹を成す、最も強く、そして揺るぎない愛。それが、あかねが妹のあおいに注ぐ「姉妹愛」です。

あおいは、自分のせいで姉が夢を諦め、不幸になったと思い込んでいます。しかし、あかねにとって、あおいを育てることは決して自己犠牲ではありませんでした。それは、彼女が自ら選び取った、何物にも代えがたい「幸せ」だったのです。

そのことを象徴するのが、おにぎりの具材のエピソードです。
高校時代、あかねは慎之介のバンドメンバーによくおにぎりの差し入れをしていました。慎之介が好きなのは「ツナマヨ」。しかし、あかねが作ってくるおにぎりの具は、いつも妹のあおいが好きな「昆布」でした。
物語の終盤、全ての真実を知った慎之介は、あかねにこう言います。
「ツナマヨは、昆布に勝てないわけだ…」
この短いセリフに、あかねの愛情のすべてが凝縮されています。彼女の世界の中心は、いつだって恋人ではなく、妹のあおいだったのです。

あかねの卒業文集に書かれていた言葉も、彼女の心情を物語っています。

「井の中の蛙大海を知らず。されど、空の青さを知る。」

「大海(=東京での夢や恋)」を知らなくても、自分には「空の青さ(=あおいの存在、あおいと見る空)」がある。それで十分幸せなのだと。あかねにとって、あおいの成長を側で見守ることこそが、人生最大の喜びだったのです。これは、誰かのために尽くすことの本当の意味を、私たちに教えてくれる、深く温かい愛の物語です。

あおいの「初恋」~憧れと嫉妬、そして決別の痛み~

一方、妹のあおいの視点から見ると、この物語は鮮烈な「初恋」と「失恋」の物語になります。

彼女が抱いていた慎之介への想いは、もともと「憧れ」でした。しかし、過去からやってきた18歳の「しんの」と出会い、お堂で二人きりの時間を過ごすうちに、その憧れは確かな恋心へと変わっていきます。彼は、自分の音楽を理解してくれる唯一の存在であり、退屈な日常から連れ出してくれる王子様のように見えたのです。

しかし、彼女はやがて気づいてしまいます。しんのの心にあるのは、いつだって姉のあかねだけ。そして、もし現在の慎之介とあかねが結ばれれば、過去の想いを昇華した「しんの」は消えてしまうかもしれない、という残酷な事実に。

姉の幸せを願う気持ちと、しんのを失いたくないという恋心。その間で、あおいの心は激しく揺れ動きます。姉に対して、思わず感情を爆発させてしまうシーンは、観ていて胸が張り裂けそうになります。
「自分だって姉のために恋心に蓋をして。あかねだって、しんのの夢のために我慢をして送り出したはずなのに。なのにプロポーズもできずにこんなザマかよ!」

最終的に、あおいは自らの手で、この初恋に終止符を打ちます。それは、姉の幸せを心から願う「姉妹愛」が、芽生えたばかりの「恋心」に打ち勝った瞬間でした。彼女は、しんののために泣くのではなく、姉の幸せのために、しんのを「振る」という強がりを見せるのです。

ラストシーン、しんのが消えた後、一人空を見上げるあおいのセリフが、この恋のすべてを物語っています。
「…泣いてないしっ!」
そして、続くモノローグ。
「あー、空、クソ青い」

失恋の痛みと、それでも前を向こうとする強がり。思春期の終わりに誰もが経験するであろう、切なくて、でもどこか清々しい感情が、短いセリフの中に溢れています。これは、一人の少女が恋を知り、痛みを知り、そして大人への一歩を踏み出す、成長の物語なのです。

あかねと慎之介の「二度目の恋」~13年の時を超えて向き合う現実~

30代の観客が最も感情移入するのは、おそらくこの「二度目の恋」の物語でしょう。これは、夢と現実、過去と現在の狭間で揺れる、大人たちのほろ苦いラブストーリーです。

13年ぶりに再会した慎之介とあかね。慎之介は、約束を果たせなかった負い目と、変わらないあかねへの想いを抱えています。一方のあかねも、慎之介の姿に、心の奥にしまい込んでいた想いを揺さぶられます。

しかし、二人の間には13年という長すぎる時間が横たわっています。夢に敗れた慎之介は、かつてのように自信に満ちた言葉を口にすることができません。一度は「この町に戻ってこようか」と弱音を吐いてしまうほどです。

この二人の関係は、高校時代のように情熱的ではありません。互いの状況を理解し、相手を気遣うからこそ、踏み込めない。そんな大人の恋愛の、もどかしさと愛おしさがリアルに描かれています。

転機となるのは、音楽祭の日にあかねが団吉のペンダントを探しにトンネルへ向かうシーン。後を追ってきた慎之介に、あかねは自分の本当の気持ちを、そして慎之介のギターが今も好きだということを伝えます。それは、13年間止まっていた二人の時間を、再び動かすための告白でした。

そして、映画の終盤、あかねが口にする「今度ツナマヨのおにぎりでも作ってみようかな」というセリフ。これは、「妹(昆布)が一番」だった彼女が、これからは「あなた(ツナマヨ)の気持ちにも応えたい」という、最高の愛情表現なのです。過去の恋を美化するのではなく、現実の相手と、もう一度未来を築いていこうとする。これは、青春の終わりを経験したすべての人々の胸に響く、再生の物語です。

慎之介の「自己愛」~過去の自分(しんの)との対峙と受容~

最後に紹介するのは、ある意味でこの物語で最も切実な、慎之介の「自己愛」の物語です。これは、過去の輝かしい自分と、現在の不甲斐ない自分との対峙と和解の物語と言えるでしょう。

31歳の慎之介にとって、18歳の「しんの」は、忘れたい、目を背けたい過去の象徴です。夢に満ち溢れ、怖いもの知らずだったかつての自分は、現在の自分を嘲笑っているように見える。だから彼は、しんのに対して「消えろ」と敵意をむき出しにします。

しかし、物語を通じて、彼は気づいていきます。しんのは、単なる過去の幻影ではない。それは、あかねを愛し、夢を追いかけた、紛れもない自分自身の一部なのだと。そして、しんのもまた、未来の自分である慎之介の姿を見て、現実の厳しさと、それでも生き続けることの尊さを学んでいきます。

クライマックス、しんのが消えゆく中で、慎之介に投げかける言葉が胸を打ちます。
「うまくいかねえこともあるんだろうけど、それでも将来、お前になってもいいかもしんねえって」

過去の自分が、未来の自分を肯定した瞬間です。この言葉によって、慎之介は初めて、夢に破れた今の自分を丸ごと受け入れることができるのです。彼は過去の呪縛から解放され、「金室慎之介」として、もう一度前を向いて歩き出す決意を固めます。

これは、理想通りにはいかなかった自分の人生を、それでも愛し、肯定するための物語。多くの大人が心のどこかで抱えている後悔や自己嫌悪に、そっと寄り添ってくれる、究極の「自己愛」の物語なのです。

4つの愛の物語【まとめ】

いかがでしたでしょうか。これら4つの物語が、一本の映画の中で同時に進行しているのです。どの物語をメインとして観るかで、感動の質はまったく変わってきます。

愛の形主な登場人物物語のテーマ共感するポイント
① 姉妹愛あかね → あおい献身と選択、家族の絆誰かのために生きる幸せ、見返りを求めない愛情
② 初恋あおい ⇔ しんの憧れ、成長、そして切ない失恋思春期の痛み、初恋の輝きと終わり
③ 二度目の恋あかね ⇔ 慎之介大人の再会、現実と向き合う愛過去の恋との向き合い方、もどかしくも愛おしい関係性
④ 自己愛慎之介 ⇔ しんの過去との対峙、自己受容、再生夢と現実のギャップ、後悔との和解

あなたが最も心を揺さぶられたのは、どの愛の形でしたか?

「空青」が名作たるゆえん~心に響く技術と魂~

この複雑な四角関係を、なぜ私たちは混乱することなく、深い感動と共に受け止めることができるのでしょうか。そこには、「超平和バスターズ」ならではの魔法と、アニメーション技術の粋が凝縮されています。

「原作」としての超平和バスターズの物語力

本作はオリジナルアニメ映画でありながら、その物語は「超平和バスターズ」という強力な原作に基づいていると言えます。長井監督の演出、田中さんのキャラクターデザイン、そして岡田さんの脚本。この三位一体が生み出す物語には、人の心の奥底にある、言葉にならない感情を的確に掬い上げ、観る者の胸に突き刺す力があります。岡田脚本特有の、生々しくも詩的なセリフ回しは、登場人物たちの葛藤や痛みを、私たちのすぐ隣にあるものとして感じさせてくれます。

映像と音楽の奇跡的な融合

前述の通り、本作の映像美と音楽の使い方は神がかっています。横山克さんが手掛ける劇伴は、登場人物の心情に完璧に寄り添い、そして、本作を語る上で欠かせないのが、あいみょんさんが書き下ろした2つの主題歌です。

劇中歌としても使われる『空の青さを知る人よ』は、まさに慎之介の心情そのもの。《赤く染まった空から 溢れ出すシャワーに打たれて》という歌詞は、夕暮れの空だけでなく、あかねへの想いを想起させます。
一方、あおいの視点から描かれたエンディングテーマ『葵』。この二つの楽曲が、物語の異なる側面を見事に描き出し、作品の世界を何層にも深くしているのです。プロデューサーの川村元気氏が「脚本を読んであいみょんの声が聴こえた」と語った逸話も、この奇跡的な融合を物語っています。

言葉にできない感情を掬い取るストーリーテリング

本作の巧みさは、10代の青春群像劇だけでなく、30代のリアルな恋愛模様や人生の葛藤を描ききった点にあります。10代ならあおいの焦燥感や、しんのへ抱くどうしようもない恋心に自分を重ねるでしょう。一方で30代、40代であれば、夢と現実のギャップに苦しむ慎之介のやるせなさや、多くを語らずに全てを受け入れるあかねの静かな覚悟に、我がことのように胸を痛めるはずです。

この作品が描く感情は、決して単純なものではありません。
あおいは、姉の幸せを誰よりも願いながら、その姉に嫉妬してしまう。
慎之介は、過去の輝かしい自分(しんの)を疎ましく思いながら、心のどこかでその眩しさに焦がれている。
あかねは、穏やかな日常に満足しながらも、心の奥底ではかつての恋のときめきを忘れられずにいる。

こうした、一言では「好き」や「嫌い」に分類できない、矛盾をはらんだ生々しい感情。脚本の岡田麿里さんは、まさにこうした人間の心の機微を、容赦なく、しかしどこまでも優しく描き出す名手です。彼女が原作を手掛けた『荒ぶる季節の乙女どもよ。』で描かれた、性に振り回される少女たちの複雑な心理描写にも、その手腕は遺憾無く発揮されています。

登場人物たちが抱える、言葉にならない想いのベクトルを、長井龍雪監督は巧みなカット割りやキャラクターの表情、視線の動きで、観る者の心に直接訴えかけてきます。だからこそ、私たちはキャラクターたちの感情の揺れ動きを、理屈ではなく感覚で理解し、深く共感することができるのです。この多層的でリアルな感情の描写こそが、『空青』を単なる青春アニメではなく、すべての世代の心に響く人生の物語へと昇華させているのです。

あなたの空は、どんな色をしていますか?

ここまで、『空の青さを知る人よ』の魅力を、4つの愛の物語という切り口からじっくりと掘り下げてきました。いかがでしたでしょうか。

この物語が、観る人の心に一本の杭のように深く打ち込まれるのは、一本の映画の中に、姉妹の愛の物語、青春の終わりと大人の再出発の物語、そして時を超えた切ない恋の物語が、見事なタペストリーのように織り込まれているからです。だからこそ、観終わった後に「なんだかよくわからないけど、すごく良かった」という、一言では表せない複雑で豊かな感動が生まれるのです。

この物語のタイトルにもなっている、あかねが卒業文集に記した言葉を、もう一度思い出してみてください。

「井の中の蛙大海を知らず、されど空の青さを知る」

自分のいる狭い世界しか知らなくても、その場所から見える空の青さ、その美しさを誰よりも知っている。
あかねにとっての「空の青さ」は、妹のあおいと共に過ごす、何気ない日々の幸せでした。彼女は、東京という「大海」へ出る夢よりも、そのかけがえのない幸せを選び、大切に育んできました。

では、あなたにとっての「空の青さ」とは、一体何でしょうか。

それは、かつてがむしゃらに追いかけた夢の輝きかもしれません。
あるいは、理想とは少し違うけれど、懸命に生きている今の自分自身を認めてあげることかもしれません。
もしかしたら、大切な誰かと共に過ごす、何気ない日常の温かさの中に、あなたの「空の青さ」は隠れているのかもしれません。

この映画は、私たち一人ひとりに、自分の人生における「本当に大切なもの」は何かを、優しく問いかけてくれます。答えは一つではありません。観るたびに、あなたの心の状態によって、きっと違う「青さ」が見えてくるはずです。

忙しい毎日の中で、少しだけ立ち止まりたくなった時。昔の自分を思い出して、胸が少しだけ痛む夜。そんな週末に、この切なくも温かい物語に触れて、あなただけの「空の青さ」を探しに出かけてみませんか?

びわおちゃんブログ&アニオタWorld!では、これからも皆さんの心を揺さぶる名作を、独自の視点で熱く、深く、語り尽くしていきます。次回はどんな作品と出会えるのか、どうぞお楽しみに!

VODでいつでもどこでも!

自分のペースでじっくり観たい方は、動画配信サービス(VOD)が便利です。U-NEXTとAmazonプライムで見ることができますよ。まだ加入していないよ!って方は下の徹底比較も参考にしてください。


☆☆☆☆☆今回はここまで。

👉使用した画像および一部の記述はアニメ公式サイトから転用しました。

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