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「だからね、『ロボ太とポコ太』を描いてくれた先生のおかげです」――。上手ではない。構成もめちゃくちゃ。それでも安海相が初めて描き切った漫画は、情熱を失った手島零の心を動かしました。第2話が描いたのは、才能の開花ではありません。誰かから受け取った物語が、読者を通して作者のもとへ帰っていく瞬間だったのではないか、と考えます。
※この記事は、テレビアニメ『これ描いて死ね』第2話「あなたは輝いている〜漫画を描くのは大変である」のネタバレを含みます。
第2話あらすじ|安海が「読む側」から「描く側」へ
「なんで漫画家なのに、学校の先生をやられてるんですか?」
憧れの漫画家・☆野0の正体が、学校の手島零先生だった――。
夢のような事実を知った安海相は、島へ戻る船の中でも質問を止められません。ところが手島先生は、「答えられません」を繰り返し、最後には「お互い今日のことは忘れませんか」と口止めを図ります。
もちろん、安海が忘れられるはずもありません。
翌日、安海は親友の赤福幸へ秘密を打ち明け、二人で漫画研究会の設立を申し出ます。しかし手島先生が示した条件は、「漫画を一本描き上げること」でした。
公式の第2話あらすじでも、安海が赤福と漫画研究会の設立を願い出て、ポコ太に励まされながら初めての漫画制作へ挑む流れが紹介されています。
一方、手島先生は旧友・寺村七の営む漫画専門の貸本店へ向かいます。そこで語り始めたのは、漫画を描くほど自分の無力さを知り、ついには「私にはもうマグマがない」と思うようになった過去でした。
片方では、初めて火がついた少女がいる。
もう片方では、火が消えたと思い込んでいる元漫画家がいる。
二つの時間が、一冊の不格好な漫画によって交差していきます。
漫画研究会設立の条件|教えてもらう前に一本描く
安海は漫画の描き方を知りません。
だからこそ、憧れの漫画家である手島先生に教えてほしい。それなのに、教えてもらうためには、先に一本完成させなければならないのです。
水泳を習いに来た人へ、「では、まず向こう岸まで泳いでください」と告げるような条件でしょう。
ただし、本当に安海を諦めさせたいだけなら、手島先生は申し出をその場で却下できたはずです。それでも彼女は、安海に一週間という時間と、作品を提出する機会を与えました。
手島先生の矛盾|拒絶しながら扉の鍵を渡した
第1話から、手島先生は言葉と行動が一致しない人物でした。
漫画を「嘘」と呼びながら、☆野0としてコミティアに参加する。正体を隠そうとしながら、東京まで来た安海を放置せず、島へ連れ帰る。
第2話でも、その矛盾は続きます。
漫画研究会を認めないと言いながら、完全には拒絶しない。「歓迎します」と扉を開く代わりに、「開けられるものなら、自分で開けてみなさい」と鍵を置いたのです。
相変わらず、不器用にもほどがあります。
それでは、物語の流れを追いながら、第2話の見どころベスト5を振り返っていきましょう。
第5位 漫画研究会設立|赤福幸の明るさと黒い交渉術
「部室は絶対、クーラー完備で!」
漫画研究会を作ろうと言い出した赤福ですが、彼女の動機は漫画への情熱ではありません。
安海が求めているのは、自分の漫画を描ける場所。
赤福が求めているのは、暑い夏を快適に過ごせる場所。
二人の目的は、最初から少しずれています。
BEST SCENE 05
目的は違っても、同じ部屋へ行ける
漫画研究会を求めた二人。しかし、その胸に描いていた未来は少し違いました。
「オレは夢を諦めない! どんな手も使う!」
※夢とは、主にクーラーの効いた部室のことです。
赤福が欲しいもの|創作の聖地よりクーラー
赤福が思い描く理想の部室は、クーラー完備、クッションあり、ドリンクバーあり、漫画もたくさん置かれた空間でした。
それ、研究会というより漫画喫茶では――。
ここで違和感を覚えた方もいるかもしれません。赤福は、漫画研究会を作りたいと言いながら、自分が漫画を描きたいとは言っていないのです。
しかし、この動機の違いは物語の傷にはなっていません。
創作の場は、同じ能力や同じ熱量を持つ人だけが入れる聖域ではない。入口が違っても、同じ場所へ向かうことはできる――。赤福の存在は、これから生まれる漫画研究会の柔らかさを先に示していたのではないか、と考えます。
「どんな手も使う」|扉を開ける強引さ
手島先生が申し出を却下しようとした瞬間、赤福は切り札を出します。

「手島先生みたいな地方公務員って、副業していいんでしたっけ?」
なんということでしょう。
手島先生が漫画家☆野0であるという秘密を、迷いなく交渉材料へ変えました。
「オレは夢を諦めない! どんな手も使う!」
夢とは、主にクーラーの効いた部室のことです。
目的の温度は低いのに、手段への情熱は異様に熱い。赤福がいることで、第2話は創作の苦しさだけに沈まず、明るい青春コメディとして走り続けます。
同時に、この遠慮のなさは安海にはない強さです。少々強引でも扉を叩き続ける人が隣にいるからこそ、安海は拒絶の前で立ち止まらずに済んだのではないでしょうか。
第4位 初めての漫画制作|読む側から描く側への越境
「来週までに、漫画を一本描いてきてください」
頭の中で物語を楽しむことと、それを紙の上へ出すことは違います。
読むだけなら数秒で通り過ぎる一コマに、描き手は長い時間を費やさなければなりません。しかも、時間をかければ必ず面白くなるわけでもない。
安海はここで初めて、漫画が「好き」だけでは越えられない壁にぶつかります。
BEST SCENE 04
「読む人」から「描く人」へ
安海が越えたのは、たった一冊、けれど途方もなく大きな境界線でした。
手島先生の条件|拒絶か、最初の授業か
手島先生は寺村七に、安海を諦めさせるために条件を出したと語ります。
けれど、本当にそれだけだったのでしょうか。
少し立ち止まってみましょう。
ストーリーを考える。コマを割る。人物を描く。そして最後のページまでたどり着く。漫画を一本完成させる重さは、技法を聞くだけでは理解できません。
「一本描きなさい」という条件は、安海を突き放すための試験であると同時に、手島先生が行った最初の授業だったのではないか、と考えます。
期待していないと言いながら、提出日を決めて待っている。

寺村七が手島先生の奥に隠された期待を見抜いたのも、彼女が安海の未来を完全には諦めていなかったからでしょう。
ポコ太の応援|架空の相棒が現実を動かす
思うように進まない原稿を前に、安海は何度も立ち止まります。
その隣にいたのが、彼女にしか見えないポコ太でした。
ポコ太は現実には存在しません。それでも安海が励まされた時間も、机へ向かい直した選択も、完成した一冊のノートも現実に残りました。
架空のキャラクターが現実の人間を動かす――。これは、漫画やアニメが持つ力そのものではないでしょうか。
物語の登場人物が画面から出てくることはありません。それでも、「この人ならどうするだろう」と考えた瞬間、私たちの選択が変わることがあります。
ポコ太は安海の空想であると同時に、手島先生がかつて世界へ送り出した言葉の残響だったのでしょう。
第3位 手島零の過去|「私にはもうマグマがない」
「ずっと、私の腹の中にはマグマがあった」
安海が初めて漫画を描き始めた頃、手島先生は自分が漫画を描き始めた過去を振り返っていました。
原作でも手島先生の過去は「ロストワールド」として描かれています。本編の明るい青春と並行して、漫画家を目指した人間の苦悩が差し込まれることで、「始める物語」と「離れる物語」が鏡のように向き合います。
BEST SCENE 03
手島零と「マグマ」の軌跡
漫画が好きだった少女は、なぜ「もう描かない」と言うようになったのでしょうか。
「私にはもう、マグマがない」
消えたのではなく、誰かの中へ受け継がれていたのかもしれません。
マグマの意味|才能ではなく描かずにいられない衝動
手島先生が語る「マグマ」は、漫画家になれる自信ではなかったのでしょう。
言葉にできないものが腹の中にたまり、外へ出さなければ前へ進めない。うまく描ける保証などなくても、描かずにはいられない。
そんな衝動を、彼女はマグマと呼んだのではないか、と考えます。
しかし、描き始めると現実が牙をむきました。
読むのは一瞬なのに、一コマを描くには何時間もかかる。時間を費やしても、頭の中にあったものと同じ形にはならない。
第2話の副題「漫画を描くのは大変である」は、安海だけでなく、過去の手島先生にも向けられています。

家族の優しさ|なぜ励ましが胸に痛かったのか
半年ほどかけて完成させた初めての漫画を、手島先生は家族に見せます。
父も母も否定しません。むしろ、傷つけないよう優しく応援してくれました。
それでも、彼女にはその優しさが痛かった。
欲しかったのは、「頑張ったね」という慰めではなく、「面白かった」という作品への反応だったのかもしれません。
自分の作品を真正面から見てほしい。しかし、評価されて傷つくのは怖い。その矛盾が、家族の優しささえ痛みに変えてしまったのではないでしょうか。
私たちにも、励ましてほしいのに、励まされるほど苦しくなる夜があったかもしれません。「大丈夫」という言葉より先に、「本当は大丈夫ではない」と気づいてほしかったことはなかったでしょうか。
編集者への恐怖|先回りして自分を傷つける心
出版社へ持ち込む前から、手島先生の頭の中には編集者の厳しい言葉があふれていました。
ところが、現実の編集者は冷静に欠点と可能性を伝えます。
否定される前に、自分で自分を徹底的に否定しておく。そうすれば、本当に否定されたときの痛みを少しだけ減らせるから――。
手島先生が戦っていた最大の相手は、編集者ではありません。傷つく未来を先回りして作り出す、自分自身だったのではないか、と考えます。

自分だけの化石|描くほど遠ざかる「私らしさ」
手島先生は、自分にしか描けない物語を探し続けました。
ファンタジー、バトル、新しい表現。評価されるたびに次の可能性を掘っても、「これが私だ」と言えるものには簡単に届きません。
偉大な漫画を知っていればいるほど、自分の無力さが見えてくる。
漫画を好きであることが、描くための燃料になる一方で、自分を切りつける刃にもなるのです。
安海が「好き」を燃料に走り始める裏側で、手島先生は「好き」の重さに押し潰されていた。その明暗が、第2話に深い陰影を与えていました。
第2位 安海の初漫画|疑問符つきの完結が持つ価値
「漫画を描いてきました」
約束の日、安海が差し出したのは整えられた原稿用紙ではなく、ボールペンで直接描き込んだ一冊のノートでした。
下描きはなく、修正だらけ。けれど、本当の混乱はページを開いてから始まります。
BEST SCENE 02
安海の初漫画は、何がすごかったのか?
技術だけを見れば欠点だらけ。それでも、消せない価値がありました。
手島先生を襲った、ノート一冊分の大混乱
ところが――
「怖くても、自分のやりたいことはしたいです!」
――ニャン太の声には、安海自身が隠れていました。
残り3ページの大混乱|風呂敷は大きく余白はない
安海の漫画は、ニャン太たちが世界を救う冒険ファンタジーです。
主人公は水も荷物も持たず、砂漠を一週間歩きます。雑魚モンスターとの戦闘には約二十ページを使い、残り三ページで新たな強敵が登場します。
手島先生の心のツッコミが止まりません。
「ここで新キャラ!?」
しかし心配はいりません。新たな強敵は、覚醒した力によって一コマで倒されました。
心配した時間を返してほしい。
最後は「俺たちの未来は輝いているんだ!」という突然のメッセージを放ち、「旅はまだ続くぞ!」のあとに「終わり?」。
疑問符をつけたことで、作者自身も終わったのか確信が持てていないように見えます。手島先生が腹を立てるのも無理はありません。
この脳内ツッコミは、安海の初漫画の未熟さを笑いへ変え、第2話に軽やかなリズムを生んでいました。SNSでも、手島先生の反応を「B級アニメへのツッコミみたい」と楽しむ投稿が見られます。
下手でも描き切った|完璧な未完成より不格好な一作
構成は破綻しています。絵も未熟です。ページ配分にも失敗しています。
それでも、安海は最後まで描きました。
頭の中では完璧だったものが、紙に出した途端、別の姿になってしまう。初めて何かを作ったとき、その落差に立ち尽くしたことはないでしょうか。
想像の中では、もっと格好よかった。
頭の中では、確かに泣ける場面だった。
それでも「終わり?」までたどり着いた安海は、もう昨日までの読者ではありません。疑問符つきであっても、それは自分の手で置いた終止符です。
完成度の低い一作を終わらせることは、頭の中で完璧な百作を夢見ることより難しい場合があります。第2話は才能の有無を判定する前に、まず終わらせることの意味を描いたのではないか、と考えます。
「怖くてもやりたい」|ニャン太に隠れた安海の声
手島先生は、安海の漫画をもう一度読み返します。
構成も駄目。絵も拙い。セリフも長い。それでも、ある言葉で手が止まりました。
「怖くても、自分のやりたいことはしたいです!」
作中のニャン太が発した言葉です。
しかし同時に、これは安海自身の言葉でもあったのではないでしょうか。
一人で東京へ行くのは怖かった。それでも憧れの漫画家に会いたかった。
描き方はわからなかった。それでも自分の漫画を完成させたかった。
酷評されるかもしれない。それでも先生へ見せたかった。
本人が説明しようとしなくても、作品には描いた人の姿がにじみます。手島先生は技術的な欠点の奥に、安海という作者を見つけたのでしょう。
第1位 「先生のおかげです」|作品が作者を救い返す
「でも、わかる」
安海の漫画を読み返した手島先生の表情が変わります。
「これを愛して描いている」
「純粋に――漫画を」
構成の欠点は消えていません。絵が急に上手になったわけでもありません。
それでも、手島先生の目から涙がこぼれました。
BEST SCENE 01
「先生のおかげです」が起こした奇跡
手島先生が送り出した物語は、時間を越えて作者のもとへ帰ってきました。
「『ロボ太とポコ太』を描いてくれた
先生のおかげです!」
作品は、作者の知らない場所でも生き続ける――。
手島先生の涙|作品ではなく描いた人へ届いた
安海は、泣いている先生へ尋ねます。
「泣くところ、ありました?」
おそらく、作者の安海が意図して作った「泣きどころ」はありません。
だからこそ、この質問は可笑しく、それ以上に胸へ残ります。
手島先生が泣いたのは、ニャン太の冒険そのものに心を揺らされたからではないでしょう。評価や正解を考えるより先に、好きなものを紙へ詰め込んでいた過去の自分を、安海のノートの中に見つけたのではないか、と考えます。
安海の漫画は未熟でした。しかし、技術で整えられていないからこそ、描かずにはいられなかった気持ちがむき出しになっていました。
「私にはもうマグマがない」と語った手島先生の前で、そのマグマが別の誰かの中に受け継がれていたのです。
過去の作品が帰るとき|ポコ太がつないだ二人
安海は、漫画を描くことが大変だったと伝えます。
それでも完成できたのは、隣にいるポコ太が励ましてくれたからでした。
そして、まっすぐに告げます。
「だからね――」
「『ロボ太とポコ太』を描いてくれた先生のおかげです!」
この言葉によって、過去と現在が一本につながります。
手島先生が送り出した『ロボ太とポコ太』が、安海の隣にポコ太を立たせた。
ポコ太が安海を机へ向かわせ、初めての漫画を完成させた。
その漫画が今度は、手島先生の心へ帰ってきた。
作者が読者を支え、読者が作品を抱えて生き、その姿によって作者を支え返す――。物語は、一方向に渡されるだけではありません。
手島先生にとって『ロボ太とポコ太』は、すでに遠ざかった過去の作品だったのかもしれません。けれど安海にとっては、今も隣を歩いてくれる物語でした。
作品が完結しても、読んだ人の中で物語まで終わるとは限りません。
作者自身が価値を見失ったあとにも、どこかで誰かの背中を押していることがある。その事実が、安海の言葉を通して作者のもとへ帰ってきたのではないでしょうか。

第2話の物語をつないだ三つの段階
- 手島先生が『ロボ太とポコ太』を描く
- ポコ太の言葉が安海を支え、初漫画を完成させる
- 安海の漫画と「先生のおかげです」が手島先生へ届く
上手だから届いたのではありません。「好き」を最後まで描き切ったから届いたのでしょう。
手島先生が顧問になった理由|漫画の隣への帰還
安海の漫画を読み終えた手島先生は、同好会設立申請書を差し出します。
「顧問は私が受け持ちます」
安海が職員室で喜びを爆発させると、先生はいつもの厳しい口調へ戻ります。
「職員室ではお静かに!」
表情も立場も変わっていません。
それでも、彼女はもう漫画から完全に背を向けてはいませんでした。
マグマは戻ったのか|再出発を断言しない優しさ
この時点で、手島先生が再び自分の漫画を描くと決めたわけではありません。
失ったマグマが完全に戻ったとも言い切れないでしょう。
しかし彼女は、漫画のある場所から逃げることをやめました。
自分で描くのが怖いなら、まず誰かが描く姿を見守る。過去へ直接戻れなくても、新しい世代の隣に立つことで、漫画との関係を結び直すことはできます。
顧問を引き受けるという選択は、「漫画家への復帰」ではなく、「漫画の隣への帰還」だったのではないか、と考えます。
安海が認められたもの|才能より好きから逃げないこと

手島先生は、安海に「才能がある」とは言っていません。
漫画が面白かったとも言っていません。
それでも顧問を引き受けました。
彼女が認めたのは作品の完成度ではなく、安海が「好き」という気持ちから逃げず、最後まで描いた事実だったのでしょう。
未熟でも、怖くても、誰かの影響から始まっても、自分の手で最初の一歩を刻むことはできます。
タイトルの「あなたは輝いている」は、すでに完成した人ではなく、うまくできない自分を抱えたまま踏み出した人へ向けられた言葉だったのかもしれません。
藤森心の登場|足りない一人と息のできない少女
手島先生が顧問を引き受け、漫画研究会設立へ大きく前進した安海と赤福。
しかし、申請書には見過ごせない条件がありました。
「同好会設立には、最低3名の会員が必要です」
安海と赤福で二人。
一人、足りません。
漫画研究会の三人目|人数合わせでは終わらない
ここで物語は、藤森心へ視点を移します。
旅館へ帰った心は、客用玄関から入ったことを女将に叱られます。勝手口が修繕中だったという理由を説明する余地もなく、つけていたヘアピンまで外されてしまいました。
「髪がきれいだから、こうしたほうがいい」
一見すると、身なりを整えてくれる親切にも見えます。
しかし、心がどうしたいかは一度も尋ねられていません。
きれいな髪だから、こうするべき。
旅館の娘だから、こう振る舞うべき。
相手の考える正しい形へ整えられていくほど、自分の輪郭が薄くなっていく。心は「息ができない」とつぶやきます。

安海と心の対比|外へ出した少女と閉じ込めた少女
安海は、自分の好きなものを一冊のノートへ吐き出しました。
整っていなくても、笑われそうでも、自分の内側にあるものを外へ出したのです。
一方の心は、自分の気持ちをまだ外へ出せません。
安海の漫画は余白が足りないほど、好きなものを詰め込んでいました。心の生活には、自分の好きなものを置く余白がないのです。
漫画研究会に足りないのは、制度上の三人目。
心に足りないのは、自分のままで息をできる居場所。
人数合わせに見える出会いが、互いに欠けている場所を埋めていく――。そんな予感を残して、第2話は幕を閉じました。
第2話タイトル考察|「あなたは輝いている」は誰の言葉か
「俺たちの未来は輝いているんだ!」
安海の漫画の終盤で、突然放たれたメッセージです。
物語の流れとしては唐突でした。しかし第2話全体を見終えて振り返ると、この言葉は三人の少女へ向けられていたようにも聞こえます。
EPISODE 02 HIGHLIGHTS
『これ描いて死ね』第2話
見どころベスト5
一本の不格好な漫画が、止まっていた時間を動かす――。
第2話を彩った5つの場面を振り返ります。
「好き」を描き切ったから届いた。 安海の最初の一本は、失われたと思われていた手島先生のマグマへ、静かに火を灯しました。
不格好な一歩も、誰かの止まった時間を動かすことがある――。
安海の輝き|未完成のまま踏み出す光
安海は、漫画家として完成していません。
むしろ、始まったばかりです。
それでも手島先生には、安海が輝いて見えたのではないでしょうか。自分が失ったと思っていたマグマを、安海が無防備なまま抱えていたからです。
輝きとは、上手にできることでも、成功が約束されていることでもない。
「やりたい」と思った自分を見捨てず、最初の一歩を踏み出すこと。その瞬間に宿るものだったのかもしれません。
手島先生の輝き|過去の作品は消えていない
同時に、「あなたは輝いている」は手島先生へ向けられた言葉にも聞こえます。
手島先生は、漫画家としての過去を消してしまいたい傷のように扱っていました。しかし彼女の作品は、安海の中で光り続けていたのです。
作者が自分を認められない時間にも、作品は誰かの隣で生きることがあります。
自分が放った光を、自分自身で見ることは難しい。それでも、見えないから存在しないわけではありません。
藤森心の輝き|まだ本人には見えないもの
そしてもう一人、「あなた」と呼ばれる人物がいるのではないでしょうか。
自分の好みも言葉も押し込められている藤森心です。
心はまだ、自分の中にあるものを表現できていません。自分が輝いているなどとは、きっと思えないでしょう。
だからこそ、タイトルは本人より先に告げているのかもしれません。
自分で気づいていなくても、あなたの中には外へ出たがっているものがある――。
安海が漫画を描くことで自分の輪郭を見つけたように、心も漫画研究会という場所で、自分の声を取り戻していくのではないでしょうか。
まとめ|漫画は作者の手を離れても生き続ける
「私にはもう、マグマがない」
そう語った手島先生の前に、安海は一冊のノートを差し出しました。
その中にあったのは、整った技術ではありません。手島先生がかつて描いた『ロボ太とポコ太』から受け取ったものを、自分なりの形で返そうとする、不器用な線でした。
漫画は読むのに一瞬でも、描くには途方もない時間がかかる。
好きであればあるほど、自分の力不足を知ってしまう。
心を込めたからといって、必ず誰かへ届くわけでもない。
それでも、描いた作品がいつ、どこで、誰の隣に立つのかを、作者自身がすべて知ることはできません。
手島先生が漫画から離れたあとも、ポコ太は安海の隣にいました。安海を机へ向かわせ、初めての漫画を完成させ、その漫画が手島先生を漫画の隣へ連れ戻したのです。
私たちはつい、「うまくなってから始めよう」「恥ずかしくない形になってから見せよう」と考えてしまいます。
ですが、最初の一本が不格好なのは、まだ何者でもないからではありません。
何者かになろうとして、初めて自分の手を動かした証拠ではないでしょうか。
「怖くても、自分のやりたいことはしたいです」
ニャン太のこの言葉は、安海の声でした。
同時に、もう一度漫画の隣へ戻ろうとする手島先生の声でもあったのでしょう。
そして次は、「息ができない」とつぶやいた藤森心が、自分の声を見つける番です。
足りない一人を探す漫画研究会と、どこかへ行きたい一人の少女。
二つの線が交わったとき、どんな新しい物語が描かれるのでしょうか――。
Citation Notice
画像・映像の引用と出典について
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