鬼人幻燈抄 9話解説 花宵簪(後編) -簪と笄の輪舞、宵を超えて平成へ

『鬼人幻燈抄』、毎週その壮大な物語と切ない運命に心が揺さぶられますね。

さて、第9話のタイトルは「花宵簪(後編)」。前編で奈津に異変をもたらした簪の謎、そして突如現れた付喪神使い・秋津染五郎との対決の行方が描かれました。そして、その先に待っていたのは、江戸という時代の終わりと、遥かな時を超えた平成の世への扉。今回は、江戸編のクライマックスとも言える奈津の事件の顛末と、物語が新たなステージへと進む壮大な転換点を、感動と共に振り返ります。

(ネタバレ注意)本ブログは「鬼人幻燈抄」の理解を促進するために感想に留まらず、原作の記述等、ネタバレになる部分を多く含みます。アニメ放送時点で明らかになっていない点についても言及していますので、ネタバレを嫌う方にはおすすめできません。

しかし、本ブログを読んだ後、アニメを見直すと、鬼人幻燈抄をより深く楽しめるはずです。

前回の第8話「花宵簪(前編)」の感想はこちらです。

僕の「簪と笄(こうがい)の和合」という仮説、見事に当たっていましたね。

目次

  1. 登場人物紹介(第9話「花宵簪(後編)」)
  2. あらすじ:付喪神の舞、解き放たれる想い、そして約束の地へ
  3. 平成編序章:甚太神社と巫女・姫川美夜香 – 170年の時を超えた約束
  4. 村長の深い悔恨と「甚太神社」建立の誓い
  5. 甚太神社のモデルは?
  6. 深掘り考察:物語の核心に触れるモチーフとテーマ
  7. まとめ:江戸から平成へ、壮大な物語は新たなステージへ
  8. 『鬼人幻燈抄』関連書籍とBlue-layの紹介
  9. VODの紹介

登場人物紹介(第9話「花宵簪(後編)」)

甚夜(CV:八代拓)

甚夜【じんや】


本作の主人公であり、元は葛野の巫女守「甚太」として巫女「いつきひめ」を守る役目を担っていました。現在は浪人として鬼退治を生業としながら、自らも鬼としての力を持つ存在です。170年後に現れる鬼神との対峙を目指し、力を蓄えています。
第8話・第9話での役割:
甚夜は、奈津に異変をもたらした簪の謎を追い、秋津染吾郎と対峙します。第9話では、秋津が操る三匹の犬神に襲われ、隠行や疾駆の力を駆使して応戦。激しい攻防の末、犬神を喰らい支配することで形勢を逆転させ、秋津の正体を聞き出します。彼の冷静な判断力と戦闘能力が光る場面でした。


奈津(CV:会沢紗弥)

奈津【なつ】


日本橋の商家「須賀屋」の一人娘で、養父・重蔵に溺愛されています。商家の娘らしからぬ活発な性格で、少し口が悪い一面も。
第8話・第9話での役割:
奈津は、秋津染吾郎から渡された簪を身に着けたことで、甚夜を「お兄様」と呼び異常なまでに慕うようになります。簪の力に支配される中で、甚夜との関係性が深く描かれました。第9話では、甚夜から笄を渡されることで簪の呪縛から解放され、涙ながらに「お兄様」と呼びかけるシーンが印象的です。


秋津染吾郎(CV:遊佐浩二)

秋津染吾郎


付喪神を操る「付喪神使い」の三代目。初代秋津染吾郎の技術を受け継ぎ、物に宿る想いを鬼に変える術を持っています。飄々とした態度ながら、その実力は甚夜を苦しめるほどのものです。
第8話・第9話での役割:
秋津は、奈津に簪を渡した張本人として甚夜の前に現れます。三匹の犬神を操り甚夜を追い詰めますが、最終的には甚夜に敗北。簪と笄が「兄妹」のような関係であることを語り、奈津の異変を解決する手助けを申し出ます。彼の存在は、物語に新たな深みを与えました。


夜鷹(CV:生天目仁美)

夜鷹


吉原近くで客を引く街娼でありながら、情報屋としても活動する謎多き女性。整った顔立ちと達観した雰囲気を持ち、甚夜とも親しい関係にあります。
第8話・第9話での役割:
夜鷹は、甚夜に鬼女の討伐を依頼し、事件の発端を作ります。第9話では、甚夜を心配して探し回り、新たな噂を伝える役割を果たします。彼女の言葉には、甚夜への信頼と親しみが感じられます。


善二(CV:峯田大夢)

善二【ぜんじ】


「須賀屋」の手代で、奈津の幼馴染的存在。人懐っこい性格で、次期番頭として期待されています。
第8話・第9話での役割:
善二は、奈津の異変に驚きつつも、彼女を支えようと奮闘します。事件解決後には、奈津をからかう場面もあり、二人の関係性が微笑ましく描かれました。


おふう(CV:茅野愛衣)

おふう


夢殿の鬼でありながら、甚夜や奈津と親しい関係を築いている女性。穏やかな性格で、物事を冷静に見極める力を持っています。
第8話・第9話での役割:
おふうは、奈津の異変を見抜き、甚夜に助言を与える役割を果たします。事件解決後には、奈津に「甚夜君への想いは蛤になりそうですか?」と問いかけ、彼女の心情を優しく見守ります。

あらすじ:付喪神の舞、解き放たれる想い、そして約束の地へ

甚夜 vs 三代目秋津染五郎 – 付喪神との激闘

奈津に簪を渡した張本人、三代目秋津染五郎と名乗る男が甚夜の前に立ちはだかります。染五郎が操る三匹の犬神(いぬがみ)は、斬っても斬っても蘇り、甚夜を追い詰めます。

甚夜は体内に取り込んだ鬼・茂助の気配を消す〈隠形(おんぎょう)〉の力で応戦しますが、聴覚と嗅覚に優れた犬神には通用しません。そこで、茂助の妻であった鬼・はつの、一瞬で空間を駆ける異能〈疾駆(しっく)〉を使い、染五郎に肉薄。しかし、切り裂いたのは身代わりの形代(かたしろ)でした。

次々と襲い来る犬神に対し、甚夜は鬼の腕を露わにし、あえて噛ませます。その力が高位の鬼に匹敵することを見抜いた甚夜は、逆に犬神を喰らい、その力を取り込みます。形勢は逆転し、支配した犬神に染五郎を襲わせると、彼はあっけなく降参。「犬神を拾うてくるわ」と落ちていた三体の犬張子を回収し、これらが「付喪神(つくもがみ)」であり、自分は付喪神を操る〝付喪神使い〟であると明かしました。

簪と笄 – 物に宿る魂と「兄妹」の物語

染五郎によれば、初代秋津染五郎は腕の良い職人でしたが、その作品には魂が宿りやすく、それが高じて魂を付喪神に変え操る術を生み出したといいます。その術を受け継いだのが三代目である彼でした。甚夜が奈津に渡した簪について尋ねると、染五郎は「売りはしないが確かに渡した」と認めます。簪を身に着けた途端、奈津が別人格のようになり、甚夜を「お兄様」と慕い始めたことを告げると、染五郎は「その女の子、なんとかしたるよ」と協力を申し出ます。

その女の子、なんとかしたるよ

染五郎は語ります。「笄(こうがい)は髪掻きが語源で娘さんの身だしなみの道具やろ?おんなじ職人が作ったんなら、ある意味、簪と笄は兄と妹やね。そやから簪は自分の兄貴(笄)を持っとる君(甚夜)をお兄様て呼んだんちゃうんかな」。そして、万葉集の歌を口にします。

「藤波(ふじなみ)の 咲きゆく見れば ほととぎす 鳴くべき時に 近づきにけり」

(藤の花が波のように咲き広がっていくのを見ると、ほととぎすが鳴くべき季節が近づいたのだなあ)

「万葉集やね、初代も冗談が好きやなぁ」と染五郎は笑います。

ホトトギスの簪と藤の花 – 幾星霜を巡る想いの帰還

染五郎と別れ、蕎麦屋「喜兵衛」へ向かう甚夜。すっかり夜になっていましたが、奈津は店の外で彼を待っていました。「お兄様、お帰りなさいませ」。甚夜は、「兄と呼ばれるのは苦手だ」と正直な気持ちを伝えます。彼の脳裏には、最後まで兄でいてやれなかった鬼の妹・鈴音の姿が浮かびます。「結局のところ、奈津とも鈴音とも兄妹ではないのだろう」と。

鳥が花に寄り添うのに何の理由が要りましょう

そんな甚夜に対し、奈津は「鳥が花に寄り添うのに何の理由が要りましょう。私は幾星霜を巡りお兄様の下へと辿り着きました。だからきっと貴方も同じように帰ることができると思います。私たちは想いの帰るべき場所を探して長い長い時を旅するのです」と、不可思議な言葉を語ります。

返そう、お前の半身だ

甚夜は、奈津の言葉の答えを知っていました。懐からそっと取り出したのは、第5話で三浦直次から託され、預かっていた「笄」。「返そう、お前の半身だ」。それを奈津に渡すと、彼女の目に涙が溢れます。「ああ…お兄様、ようやく貴方に触れられた」。

お兄様、ともに参りましょう

その時、夜の闇を切り裂くようにホトトギスが鳴きます。「テッペンカケタカ、テッペンカケタカ」と。奈津は自らの簪を外し、手に持った笄に重ね合わせます。すると、簪と笄は一対の光の鳥となり、夜空へと羽ばたいていきました。そして奈津は「お兄様、ともに参りましょう」と甚夜に囁き、彼の懐に倒れ込みました。

甚夜は、奈津の「鳥が花に寄り添うのに何の理由がいりましょう」という言葉を思い返します。そして、「ホトトギスの簪はずっと藤の花を探していたんだな。現世には緊要なことがあるものだ」と呟きます。染五郎は「あの簪がどんな旅をしてきたのか、どこのどなたが想いを込めて来たのか、そんなん誰にもわからへんし、判らんでもええ。あのホトトギスは自分の兄貴のところまで帰ってこれた。そんでええやろ」と言っていました。

そんでええやろ

想いの還る場所 – 染五郎の言葉と鬼の宿命

「想いってもんは最後には臨んだ場所へ還るて僕は思うな」と語る染五郎に、甚夜は「そうか、そうだといいな」と応じます。別れ際、染五郎は甚夜とおふうに対し、「鬼であることを忘れてはいけない。人からしたらどこまでも倒される側の存在だ」と厳しい現実を告げます。どんなにおふうが良い娘で、甚夜が人を救い、染五郎自身がそれを認めたとしても、その事実は変わらないのだ、と。

おにいさまぁ…とか甘えてましたしね

事件は一件落着。翌日、蕎麦屋「喜兵衛」には、簪が消え、普段の姿に戻ったものの、この間の記憶がしっかりと残っている奈津が呆然としていました。「一体どんな顔をして甚夜を出迎えればいいやら…」。そんな奈津を善

善二、後で覚えてなさいよ!

二が「おにいさまぁ…とか甘えてましたしね」とからかうと、「善二、後で覚えてなさいよ!」と睨みつけます。
おふうが奈津に「(甚夜君への想いは)蛤になりそうですか?」とそっと尋ねると、奈津は「…やっぱり私は雀で十分だわ」と答え、おふうは「あらあら」と笑うのでした。

やっぱり私は雀で十分だわ

宵を超えたほととぎす – 江戸編の終幕と平成への胎動

真昼、甚夜は夜鷹と出会います。「男を誘うには少し時間が早いだろう」という甚夜に、夜鷹は心配して探していたと告げ、「噂いくつか仕入れといたよ」と情報屋としての一面を見せます。その時、またホトトギスが鳴きます。夜鷹の近くで妙によく鳴くというその鳥に、甚夜は「宵を超えたほととぎすが花に留まっただけだろう」と意味深な言葉を残します。

さっきから妙に私の近くで鳴くんだ…

ナレーションが静かに語り始めます。「横たわる歳月には人も景色も抗えない。変わらないものなんてない。ただ、思いは、人の想いだけはたとえ姿を変えたとしても――」

そして、物語の舞台は一気に現代、平成21年(2009年)の春へと飛びます。

平成編序章:甚太神社と巫女・姫川美夜香 – 170年の時を超えた約束

甚太神社に響く巫女の名と伝統

平成21年(2009年)春。紅梅が咲き誇る神社の境内で、巫女姿の母娘が箒で掃き掃除をしています。娘の名は「みやか」。母はみやかに、この神社に生まれた女の役目として、「娘が生まれたなら名前には必ず『夜』を付けること、そして巫女を絶やさぬこと」という二つの伝統を守り、次の世代に繋いでいくよう教えられたと語ります。

二つの伝統を守り、次の世代に

「私たちには解らなくても、それを決めた誰かにとってはこの伝統は凄く大切だったんじゃないかと思うの。なら守ってあげないと。でも、本当に守るべきは伝統と言う形じゃなくてそこに込められた思い。だから私たちは『夜』の名を継いでいくの。遠い昔に会ったはずの想いが長い長い歳月に迷い、帰る場所を見失ってしまわないように。今度は名も知らぬ誰かの想いをあなたが未来に紡いでいくのよ、みやかちゃん」

この母の言葉は、『鬼人幻燈抄』の根幹をなすテーマ――時代を超えて受け継がれる「想い」の重要性――を凝縮しています。

帰る場所を守り抜いた証 – 甚夜の涙と感謝

あなたはここの巫女ですか?

母が去った後、掃除を急ぐみやかのもとに、学生服姿の甚夜が現れます。「あなたはここの巫女ですか?」。みやかは「巫女じゃなくていつき姫です。昔からこの甚太神社の習わしで巫女のことをそう呼ぶんです」と答えます。
「すみません、この神社、何というのですか?」
「甚太神社と言います」

甚太神社と言います

その言葉を聞いた甚夜の頬に、一筋の涙が伝います。彼の腰には、紫の布に包まれた葛野の宝刀「夜來(やらい)」と思われるものが。
「そうか。長(おさ)、あなたは、本当に私の帰る場所を守り抜いてくださったのですね」

第1話の最後で、葛野の長は村を出る甚太(後の甚夜)に、いつか彼が戻る日のために「甚太神社」を建てると約束していました。170年以上の時を経て、その約束が果たされていたことを知り、甚夜は感極まったのです。

「ありがとうございます。では失礼します」と立ち去ろうとする甚夜を、みやかが「え?聞きたいことがあったんじゃあ」と呼び止めます。甚夜は穏やかに微笑み、「もう聞けました。あなたは私が聞きたかった言葉を運んできてくれた」と言い残し、去っていきます。彼がくぐった鳥居には、確かに「甚太神社」の文字が刻まれていました

「甚太神社」の文字が

平成の出会い – 姫川美夜香と葛野甚夜

場面は変わり、姫川(ひめかわ)高等学校の入学式。みやかのフルネームが「姫川美夜香(ひめかわ みやか)」であることが判明します。新入生のクラス名簿に、彼女は自分の名前と共に、「1年C組 葛野(かどの)甚夜」という名前を見つけるのでした。江戸から平成へ、壮大な物語の新たな幕開けです。

村長の深い悔恨と「甚太神社」建立の誓い

『鬼人幻燈抄』第9話で、甚夜が平成の世で「甚太神社」と再会する場面は、多くの視聴者の胸を打ちました。この神社の建立には、葛野の村長の、痛切な後悔と贖罪の念が込められています。

引き裂かれた純粋な恋

かつて、葛野の村には「いつきひめ」と呼ばれる巫女がいました。その一人、白雪と、巫女守の青年・甚太は、互いに淡い恋心を抱いていました。しかし、村長の息子・清正もまた白雪に想いを寄せており、村長は我が子可愛さから、身分違いを理由に甚太と白雪の仲を強引に引き裂き、清正と白雪を婚約させてしまいます。

村長は、古くからの「巫女守は一人」という掟を破り、息子の清正を二人目の巫女守に任命するという身内びいきまで行いました。甚太は会合からも外され、白雪は村長の意向に逆らえず、清正との結婚を受け入れざるを得ませんでした。それは、白雪にとっても甚太にとっても、本意ではない悲しい結末でした。

惨劇、そして拭いきれぬ後悔

この村長の身勝手な行動が、悲劇の連鎖を引き起こします。甚太への想いを断ち切れない白雪の心の隙間、そして甚太への思慕を募らせる妹・鈴音の純粋ながらも歪んだ執着。それらが鬼の介入と結びつき、白雪は鈴音の手によって命を落とすという、あまりにも残酷な結末を迎えます。

愛する白雪を目の前で失い、さらにその犯人が実の妹であるという事実に直面した甚太。彼の心は憎悪に染まり、鬼へと堕ちていくことになります。

この惨劇を目の当たりにした村長は、息子・清正と共に自らの行いを深く後悔します。もし自分が身内びいきをせず、甚太と白雪の純粋な想いを認めていれば、こんな悲劇は起きなかったのではないか。その罪悪感は、村長の心に重くのしかかりました。

贖罪の誓い「甚太神社」

全てを失い、鬼となって葛野を去ろうとする甚太に対し、村長は土下座して謝罪します。そして、せめてもの償いとして、そしていつか甚太がこの地に戻ってくる日のために、神社を建立することを誓います。それが「甚太神社」です。

村長は、甚太が巫女の宝刀「夜来」を抜いたことで、彼こそが真の継承者であったことを認め、「夜」の名を名乗るよう告げました。甚太神社は、村長にとって、取り返しのつかない過ちを犯した自分への戒めであり、引き裂いてしまった若い二人の魂への鎮魂、そしていつか戻り来るであろう甚夜への、消えることのない道標となることを願って建てられたのです。

170年以上の時を経て、甚夜が「甚太神社」と、そして「いつき姫」の名を受け継ぐ巫女・姫川美夜香と出会ったことは、村長の贖罪の念が、長い歳月を超えて一つの形となった瞬間と言えるでしょう。それは、人の想いが時代を超えて受け継がれていくという、『鬼人幻燈抄』の壮大なテーマを象徴する、感動的な場面でした。

「甚太神社」の経緯は1話で語られています。僕のブログにもあります。この葛野編をご覧ください。

甚太神社のモデルは?

『鬼人幻燈抄』の物語に登場する「甚太神社」は、主人公・甚夜(元・甚太)が長い旅路の果てに辿り着く「帰るべき場所」として描かれています。この神社のモデルとして、ファンの間で注目されているのが、長野県白馬村にある「青鬼神社」です。
👉青鬼神社と青鬼集落(「鬼人幻燈抄」公式note)

青鬼神社とは?

青鬼神社は、白馬村の青鬼集落に鎮座する歴史ある神社で、その創建は大同年間(806年~809年)に遡ると伝えられています。現在の社殿は明治時代に再建されたもので、周囲を山々に囲まれた静謐な雰囲気が特徴です。この神社は「鬼を祀る神社」として知られ、地元では「善鬼大明神(お善鬼様)」を御神体として崇めています。善鬼大明神は、生前に村人のために善行を施した鬼であり、その死後に神として祀られたという伝承が残されています。

青鬼神社と『鬼人幻燈抄』の関係

『鬼人幻燈抄』の作者・中村颯希先生は、自身のnoteで青鬼神社を紹介しています。青鬼神社が作品の舞台そのものではないものの、その雰囲気や背景が甚太神社のイメージに影響を与えた可能性が高いとされています。特に、青鬼神社に至る長い石段や、周囲の山々に囲まれた立地は、作中の甚太神社が持つ神秘的な雰囲気と重なります。

また、青鬼集落には江戸時代の名残を残す伝統的な家屋が立ち並び、作品に登場する「葛野集落」を彷彿とさせる風景が広がっています。集落内には「お善鬼の館」という資料館もあり、地域の歴史や文化を知ることができます。これらの要素が、物語の舞台設定に深い影響を与えたと考えられます。

聖地巡礼としての青鬼神社

鬼集落の風景は、江戸時代の日本の原風景を感じさせ、物語の世界観をより深く理解する手助けとなるでしょう。

ただし、青鬼神社や青鬼集落は観光地化された場所ではないため、訪問の際には地元住民への配慮が必要です。静かに風景を楽しみ、写真撮影も控えめにするなど、マナーを守って訪れることが推奨されています。

青鬼神社は、『鬼人幻燈抄』の甚太神社を彷彿とさせる雰囲気を持つ場所として、ファンの間で聖地巡礼のスポットとして注目されています。物語の世界観を体感したい方は、ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。長い石段を登りながら、甚夜が辿った旅路や、彼が抱えた想いに思いを馳せるのも一興です。

深掘り考察:物語の核心に触れるモチーフとテーマ

付喪神と「想い」の力 – 物に宿る魂の行方

秋津染五郎が操る付喪神は、長い年月を経た道具に持ち主の「想い」が宿り、変化したものです。簪と笄が光の鳥となって飛び去ったのは、持ち主たちの想いが浄化され、あるべき場所へ還っていったことの象徴でしょう。染五郎の「想いってもんは最後には臨んだ場所へ還るて僕は思うな」という言葉は、本作の重要なテーマの一つです。これは、アニミズム的な世界観や、仏教的な輪廻転生の思想、あるいは日本古来の言霊信仰や縁(えにし)の思想が背景にあるのかもしれません。物に込められた強い想念は、時を超えて何らかの形で成就するという、ロマンチックでありながらも力強い運命観を示唆しています。これは、甚夜自身の白雪への長きにわたる想いや、いつか果たされるかもしれない鈴音との再会への伏線とも考えられます。

万葉集「藤波の咲きゆく見ればほととぎす」 – 簪と笄の恋物語

染五郎が引用した万葉集の歌「藤波の咲きゆく見ればほととぎす鳴くべき時に近づきにけり」は、藤の花が咲き誇るのを見ると、ホトトギスが鳴く季節が近づいたことを感じる、という初夏の情景を詠んだものです。万葉集において、藤の花とホトトギスはしばしば一緒に詠まれ、ホトトギスは藤の花の盛りに鳴くとされていました。

ほととぎすの「簪(かんざし)」

この歌が作中で引用されたのは、奈津が口にした「鳥(ホトトギス=簪)が花(藤の花=笄の持ち主、あるいは笄そのもの)に寄り添うのに何の理由がいりましょう」という言葉と呼応しています。「ホトトギスの簪はずっと藤の花を探していたんだな」という甚夜の独白は、簪に込められた想い(あるいは簪自身の魂)が、対となるべき笄、そしてその持ち主である甚夜を探し求め、長い時を経てようやく巡り会えたことを示しています。簪と笄が「兄妹」のような関係であるという染五郎の言葉も、この解釈を補強します。持ち主を失い、あるいは離れ離れになった二つの装飾品が、互いを求め合い、甚夜と奈津という新たな持ち主を得てようやく再会を果たし、光の鳥となって昇華していく様は、切なくも美しい小さな恋物語のようでした。

藤の花の「笄(こうがい)」

ほととぎすの簪(かんざし)と藤の花の笄(こうがい)のロマンチックな話は僕の8話解説ブログで語っています。該当部分に直リンクを入れたのでクリックして見て下さい。


👉奈津の異変の真相に迫る – 簪と笄、惹かれ合う魂のロマンス

染五郎の警告「鬼であることを忘れてはいけない」 – 人と鬼の境界線

染五郎が甚夜とおふうに告げた「鬼であることを忘れてはいけない。人からしたらどこまでも倒される側の存在だ」という言葉は、非常に重く響きます。これは、どれだけ甚夜が人を助け、おふうが心優しい鬼であっても、人間社会においては異端であり、恐怖や排除の対象となりうるという冷徹な現実を突きつけています。それは、染五郎なりのある種の警告であり、同時に、鬼として生きる甚夜たちの覚悟を問うているようにも聞こえます。しかし、その言葉の裏には、彼らに対するある種の理解や、あるいは付喪神使いとして「異物」と心を通わせる者としての共感も含まれているのかもしれません。この言葉は、今後の物語で甚夜が直面するであろう、人と鬼との間の葛藤を予感させます。

「宵を超えたほととぎす」と劇「雨夜鷹」 – 夜鷹の未来への暗示

甚夜が夜鷹に対して言った「宵を超えたほととぎすが花に留まっただけだろう」という言葉。ホトトギスは夜にも鳴く鳥とされ、夜通し鳴き続けたホトトギスが、ようやく夜明け(宵を超え)に美しい花(夜鷹)に辿り着き、羽を休めた、という情景が浮かびます。これは、夜通し客を探し続ける夜鷹が、ようやく一息つける相手(あるいは良き縁)に巡り合えたことの比喩かもしれません。
原作情報やコミックスでは、後に夜鷹とある武士(直次とされる)の恋を描いた劇「雨夜鷹」が存在することが示唆されています。この甚夜の言葉は、夜鷹の未来の恋、あるいは彼女の人生における重要な出会いを暗示する、美しい伏線となっているのではないでしょうか。

「夜」の名と巫女の伝統、そして「想い」の継承 – 平成編のテーマ

平成編で登場した姫川美夜香とその母が守る「娘が生まれたなら名前には必ず『夜』を付けること、そして巫女を絶やさぬこと」という伝統。この「夜」という名は、いつき姫(夜風、白雪)、そして甚夜(元・甚太)にも共通する重要なキーワードです。それは、鬼が跋扈する「夜」を鎮める存在、あるいは闇の中でこそ輝く希望の灯火といった意味合いを持つのかもしれません。巫女の伝統を絶やさないことは、葛野の地で始まった「いつき姫」の役割、鬼との対峙、そして何よりも大切な「想い」を未来永劫にわたって継承していくための装置なのでしょう。
美夜香の母が語った「本当に守るべきは伝統と言う形じゃなくてそこに込められた思い」という言葉は、まさに『鬼人幻燈抄』全体のテーマを貫くものです。時代が移り変わり、人々の暮らしや価値観が変わろうとも、愛、憎しみ、悲しみ、希望といった根源的な「想い」は形を変えながらも受け継がれていく。甚夜の170年にも及ぶ壮絶な旅もまた、白雪への愛、鈴音への複雑な想い、そして鬼としての宿命という、様々な「想い」に突き動かされてきたのです。

まとめ:江戸から平成へ、壮大な物語は新たなステージへ

『鬼人幻燈抄』第9話「花宵簪(後編)」は、簪と笄に込められた小さな恋物語の美しい終結と、付喪神使い・秋津染五郎という魅力的なキャラクターの提示、そして何よりも江戸から平成へと物語の舞台を大胆に移行させるという、衝撃と感動に満ちたエピソードでした。

江戸編で積み重ねられてきた数々の出来事、人々の想いが、170年以上の時を超えて「甚太神社」という形で結実し、甚夜の永い旅路に一つの道しるべを与えました。そして、平成の世で出会う新たな「いつき姫」姫川美夜香と、「葛野甚夜」。また新たな物語が紡がれようとしています。

江戸編で語り尽くせなかった想いや因縁は、形を変えて平成の世にも受け継がれていくのかもしれません。壮大なスケールで描かれる鬼と人の物語は、新たな章へと突入しました。今後の展開から、ますます目が離せません。

皆さんは、この江戸編の結末と平成編への移行をどのように感じましたか?そして、平成の甚夜と美夜香にどんな運命が待ち受けていると予想しますか?ぜひ、あなたの感想や考察も聞かせてください。

それでは、また次回の感想でお会いしましょう。

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『鬼人幻燈抄』関連書籍とBlue-layの紹介

江戸編 幸福の庭 (双葉文庫) L文庫小説

百七十年後に現れる鬼神と対峙するため、甚太は甚夜と改名し、第二の故郷・葛野を後にした。幕末、不穏な空気が漂い始める江戸に居を構えた甚夜は、鬼退治の仕事を生活の糧に日々を過ごす。人々に紛れて暮らす鬼、神隠しにあった兄を探す武士……人々との出会いと別れを経験しながら、甚夜は自らの刀を振るう意味を探し続ける――鬼と人、それぞれの家族愛の形を描くシリーズ第2巻!

✨ 「和風ファンタジー『鬼人幻燈抄(コミック): 』(Kindle版) がついに登場!

「切なく美しい」「心に響く」と話題沸騰!鬼才・里見有が描く、和風ファンタジー『鬼人幻燈抄(コミック) : 1』(Kindle版) がついに登場しました!

舞台は江戸時代の山深い集落・葛野。巫女「いつきひめ」を守る青年・甚太は、未来を語る不思議な鬼と出会い、運命の歯車が回り始めます。墨絵のような美しい描写、胸を締め付ける切ない物語が、あなたの心を掴んで離しません。

愛と憎しみ、生と死が交錯する世界で、甚太は刀を振るう意味を問い続けます。江戸から平成へ、170年という途方もない時間を旅する鬼人の壮大な物語が、今、幕を開けるのです。原作小説の重厚な世界観を、美麗な作画で見事に再現。原作ファンも納得の完成度です。

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『鬼人幻燈抄 葛野編 水泡の日々【電子版特別短編付き】』発売開始!

心を揺さぶる和風ファンタジー、ついにKindle版で登場! 江戸時代の山村を舞台に、巫女の護衛を務める青年・甚太と、遥か未来を語る不思議な鬼との出会いから物語は始まります。刀を振るう意味を問いながら、時代を超えて旅する鬼人の姿は、読む者の魂を強く揺さぶるでしょう。

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VODの紹介

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2022_MLB

☆☆☆☆☆今回はここまで。

👉使用した画像および一部の記述はアニメ公式サイトから転用しました。

👇前回の話はこちらです

鬼人幻燈抄 8話解説「花宵簪(前編)-奈津の心を支配した簪と蛤が求めた「お兄様」

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