おかえりなさい。びわおちゃんブログ&アニオタWorldへようこそ。
「いきましょうか、かけるくん」
――名前で呼び合う提案を断られた人が、それでも彼を呼ぶことにした呼び方です。
第2話「冬月小春」で、恋の輪郭がはっきり出ました。ただし、両側から均等にではありません。誘い、抱きとめられ、名前呼びを切り出し、断られてなお自分だけが呼ぶことにしたのは小春です。かけるは高鳴る胸を吊り橋効果という言葉で処理し、恋の手前で足を止めています。ただ誤解のないように書きますが、彼の心が動いていないわけでは決してありません。感じている量はおそらく互角で、言葉にできた量だけが違う。そういう回でした。
かけ恋 2話 冒頭の白杖|前日の躊躇が、彼女には聞こえていた
第2話は、前日の講義帰りの記憶から動き出します。落ちていた白杖に手を伸ばすまで、かけるは何度も躊躇していました。
「拾っていいのか」を越えた一本|勇気の最小単位
物を拾う行為に、普通なら勇気はほとんど要りません。話しかける必要も、名乗る必要も、関係を宣言する必要もない。それでも彼は止まりました。
余計なことにならないか。手を出したせいで相手を傷つけないか。過去のある出来事から他人と深く関わることを避けてきた人だとされています。その彼にとって、あの一本は勇気の最小単位であり、同時に出せる最大値でもあったのではないか、と考えます。
――ここで少し立ち止まってみましょう。
小春は目が見えません。だから彼女が受け取ったのは、拾われた白杖そのものだけではないはずです。
差し出される手が、すぐには来なかった。少し置いて、来た。あの数秒の空白に、誰かが迷って、それでも決めたことが、音の途切れとして届いていたのかもしれません。
反射で伸びる手は軽やかです。迷った末に伸びた手は、そうではありません。小春があの件を繰り返し口にするのは、受け取ったものの重さを知っているからだと思います。
「目が見えないと聴覚が良くなるのか」|飲み込まれた問い
同じ休憩スペースで、二人はまた顔を合わせます。
かけるの頭にあるのは、素朴な疑問です。小春は遠くから声をかけられても、それが誰なのか言い当ててしまう。目が見えないと耳が良くなる、という話を聞いたことがある。あれは本当なのだろうか。
けれど、本人に聞いていいものかどうか。そこで止まります。手を出す手前でも、口に出す手前でも、この人は必ず一度考え込みます。
――心当たりが、少しありませんか。
失礼になるかもしれないと思って引っ込めた質問。あとで聞けばよかったと後悔したのに、次の機会でもやっぱり聞けなかったこと。
「そんなことはない」|答えを持っていたのは、ずっと本人
そこへ早瀬優子が現れます。何の話をしていたのかと聞かれ、小春は答えます。早瀬さんの声は遠くからでも聞き取りやすいのだ、と。
すると優子は、すかさず本人に投げます。目が見えないと聴覚が良くなるのか、と。まったく躊躇がありません。
小春の答えは、そんなことはない、というものでした。ついでにピアノの経験があることまで話し出します。
答えを持っていたのは、ずっと本人のほうだった。この構図が、この作品の芯にあると考えます。気を遣って飲み込んだ問いより、真正面から投げられた問いのほうが、彼女を普通に扱っている。
しかも優子はピアノの話を拾って記念会館の案内をかけるに頼み、連絡を受けてさっさといなくなります。段取りが良すぎませんか、この人。
記念会館のグランドピアノ|言い当ててから、すぐ自分で降りる
二人きりで会館へ。小春は鍵盤をひとつ押しただけで、これはグランドピアノですね、と言い当ててみせます。
「超人芸ではない」|褒められる前に、期待の位置を下げる
驚くべき場面のはずなのに、本人がすぐ訂正します。盲目のピアニストのような超人芸ができるわけではない、見えていた頃の記憶で多少弾けるだけだ、と。
過剰に持ち上げられることを、彼女は自分から避けにいきます。
この動作、覚えのある方も多いのではないでしょうか。褒められた瞬間に否定から入ってしまう。期待の高さを、自分の手で低く直しに行ってしまう。
小春のこれは謙遜というより予防に見えます。持ち上げられた高さから落ちる痛みを、たぶん知っている人の速さです。
「バッハはいいね」|必死さの行き先が、盛大にずれる
演奏が始まります。爽やかで、心地のいい波打ち際にいるような調べ。かけるは素直に、うまい、と感じます。
弾き終えた小春は、緊張していたらしく、少し不安そうに感想を求めてきます。
そこでかけるの口から出たのが――「バッハはいいね」。
かすりもしていません。小春は笑います。慌てたかけるは作曲者の名前を次々に挙げますが、これがどれも当たらない。小春はまた笑います。
――ここで注目したいのは、彼の焦りの正体です。
正解したいのではありません。傷つけたくない、が先に立っています。しかも「うまいと思った」という感想自体は、彼の中ではっきりしている。そこに理屈でしゃれた包装を掛けようとして、包装ごと落としている。
どうでもいい相手の演奏に、人はここまで神経を使いません。あの空回りは、すでに恋の症状だと考えます。
フウキハルミ「アラビアの海」|小学2年という一行
正解は、フウキハルミの「アラビアの海」。ピアノコンクールでよく選ばれる曲で、小春が弾いたのは小学2年のときだといいます。
つまり彼女は、少なくともその頃までは見えていた。
作品はこれを重々しい説明台詞にしません。弾いたことのある曲の思い出として、さらりと差し出します。いちばん大きな事実が、いちばん軽い会話に混ざっている。この配置の慎み深さが、この作品の品位だと思います。
見えなくなって悲観するのではなく、見えていた頃の記憶を活かそうとする。そこに惹かれた視聴者も少なくないようです。
「LINEすればいいのでは」|誘っていい相手だと、思っていなかった
会館からの帰り道、小春はあらためて礼を言います。前日、白杖を拾ってくれたこと。それが、またお茶をするきっかけになります。

驚いて、そして喜ぶ|前向きな人ほど、枠を狭く持っていた
そこでかけるが口にしたのは、LINEで連絡すればいいのでは、というごく当たり前の提案でした。
ところが小春は、それに驚き、喜びます。連絡していいんだ、と。
何気ないやりとりですが、ここが地味に効きます。臆することなく突き進む人のほうが、実は「誘っていい相手」の枠をずっと狭く持っていた。
――誘われるのを待っていたのに、自分からは送らなかった相手。連絡先を持っているだけの名前が、私たちにもいくつかありませんか。
礼を言うたびに、次の約束が生まれている
小春は、白杖の件を繰り返し口にします。かけるは、そのたびに少し戸惑っているように見えます。
けれど彼女は、礼だけで終わらせません。お茶に行きましょう、記念会館へ行きましょう、と、そのつど次の予定に変えていきます。
躊躇の末に伸びた手を、伸ばしっぱなしにさせない。誰かの小さな勇気に、こんなに丁寧に応えてもらった経験が、私たちにはどれくらいあるでしょうか。
明治丸の船首|言葉でしか渡せない景色を、いちばん手間のかかる方法で渡す
授業のあと、小春からLINEが届きます。明治丸への誘い。帆船科があるおかげで、この大学には学内に船があります。
文字も、色も、形も|案内ではなく、翻訳
船の中は狭く、段差も多い。小春にはハードルが高い場所です。
そこでかけるは、掲示されている文字や、目に入る色や形を、ひとつずつ言葉に置き換えていきます。
――ここに注目したいのです。
案内を頼まれただけなら、段差の位置と進む方向を伝えれば足ります。掲示物の文字まで読み上げる必要はありません。
彼がやっていたのは、案内ではなく翻訳です。そして翻訳は、相手に見せたいものがある人だけが選ぶ手間だと思います。
自分から誘うことはできないのに、来た場所では最大値を出す。この順番の人が、世の中にはたしかにいますね。
「きっと素敵な場所なんでしょうね」|断定しない受け取り方
そうして辿り着いた船首で、小春は言います。きっと素敵な場所なんでしょうね、と。
ここで違和感を覚えた方もいるかもしれません。見ていない場所を素敵と言えるのか、と。
けれど彼女は「素敵ですね」ではなく「素敵なんでしょうね」と言っています。断定していない。渡された言葉から自分で組み立てて、その結果を推量で返している。
受け取り上手というのは、こういうことではないでしょうか。相手が渡せた範囲を尊重したまま、ちゃんと喜ぶ。
タイタニックごっこ|断ったのに、腕のほうが先に動く
帰ろうという段になって、小春が突然、両腕を広げて仁王立ちします。幼少期に見た映画のタイタニックごっこらしい。
しかも、かけるを誘ってきます。当のかけるは気恥ずかしさが先に立ち、どうにかごまかそうとする。
そこで小春がつまずき、よろける。倒れそうになった彼女を、かけるは咄嗟に抱きかかえます。
ごっこ遊びは断ったのに、結局こうなる。この人の本心は、口ではなく手のほうに出るようです。放送直後、この場面を中心にSNSが賑わったのも無理はないと思います。
PR / FOR THIS SCENE
このシーンを、もう一度
言葉に置き換えると、どうしても取りこぼしてしまうものがあります。『透明な夜に駆ける君と、目に見えない恋をした。』は、間の長さと音の消え方で語る作品です。少しでも引っかかったなら、ご自身の目と耳で。
U-NEXTで『かけ恋』を観る初回31日間無料/記事の続きはこの下から
かけ恋 2話 名前呼び|断られた提案を、それでも自分だけが続けた
抱きとめられた腕がほどけて、二人はまた並んで歩き出します。その帰り道で、小春が口にしたのが名前のことでした。
放送直後、この作品の第2話でもっとも語られたのはタイタニックごっこだったようですが、私にはその数十秒後のほうが、ずっと重い場面に見えます。
「名前で呼び合いませんか」|半分だけ叶えるという選択
苗字ではなく、名前で呼び合いたい。小春はそう切り出します。
ここで思い出したいのは、彼女がこの日ずっと「空野さん」と呼んでいたことです。案内を頼むときも、船首で説明を求めるときも、その距離のまま話していました。つまりこの提案は、思いつきで漏れた一言ではなく、一日分の会話をくぐらせたうえで出てきたものではないか、と考えます。
――少し立ち止まってみましょう。
呼び方を変えたいと申し出るのは、関係の名前を書き換えたいと言っているのと、ほとんど同じことです。用事もない。理由も要らない。ただ距離を詰めたいという願いだけが、むき出しで置かれます。
そして小春は、それを「呼び合いませんか」という形で出しました。自分が呼ぶ許可ではなく、相互を求めたのです。断られる面積が、二倍に広がる言い方だと思います。
断ったのは照れか、線引きか|かけるの「無理」の中身
かけるの返答は、できない、というものでした。
ここで違和感を覚えた方もいるかもしれません。船の中では掲示物の文字まで読み上げていた人が、なぜ呼び方ひとつを断るのか、と。
考えられる筋は、二つあります。ひとつは純粋な気恥ずかしさ。もうひとつは、これ以上近づいたら戻れなくなると分かっていたから、という線引きです。
私は、後者の色が濃いのではないか、と考えます。彼はこの日、高鳴る胸を吊り橋効果という言葉で片づけていました。名前で呼び合ってしまえば、その説明はもう使えません。呼び方は、感情に名札をつける行為でもあるからです。
つまり彼が守ろうとしたのは、小春との距離ではなく、自分の言い訳のほうだったのかもしれません。
――逃げているのに、断り方だけは律儀。困った人ですね、この方は。
「かけるくん」|引き際を先に決めていた人の呼び方
「いきましょうか、かけるくん」
断られた直後、小春はそう呼びました。提案は流れたのに、彼女は自分の側だけを実行に移したのです。
これは押し切りではありません。かけるに呼ばせることは、もうやめている。求めるのをやめて、渡すほうだけを残した――半分だけ叶える、という選択です。
そして、なぜ即座にそれができたのか。答えはおそらく、断られたときの引き際を、口を開く前から用意していたから、ではないでしょうか。
願いを半分に削って、削ったほうを笑って差し出せる人。その手際の良さは、これまで何度もそうしてきた人の速さに見えます。前向きさの下に、削り慣れた跡がある。私たちが小春に惹かれるのは、明るさそのものではなく、たぶんこの部分ではないかと思うのです。
かけ恋 2話の恋愛描写考察|想いの重さは、いま小春の側にあります
ここが第2話の本題だと考えます。この回で恋の気配が立ち上がったのは間違いありません。ただし、対等にではありません。
上の五つは、すべて彼女の側から出ています。誘いは断られる。ごっこ遊びは恥ずかしがられる。名前呼びは、実際に断られました。それでも小春は毎回、断られる可能性ごと引き受けて口を開いています。
これは前向きさとは別の能力ではないか、と考えます。明るい性格の人が、必ずしも拒絶に強いわけではありません。小春は、断られても関係が終わらないところまで引き際を用意したうえで、踏み出しているのです。
そしてもう一つ。彼女は自分の見えないことを、恋の障害としても切り札としても使いません。段差の多い船を選び、映画の再現を選び、見えていた頃の記憶を遊びの燃料に変える。同情の入り口を、自分の手で閉じています。
同情されて手に入る関係は、彼女が欲しいものではない。だから特別扱いを外し、持ち上げも外す。全部外したうえで、それでも会いたいと言われる関係を作りに来ている――ここに冬月小春という人の核心があるのではないか、と考えます。
かけ恋 第3話への期待|蓋が外れるのは、彼が走り出すとき
小春の「人生でやりたいことリスト」には、打ち上げ花火を上げるという願いがあります。そしてかけるは、その夢を叶えようと動き出す人です。
つまり、彼が動く回が来ます。
そのとき彼は、吊り橋効果という言葉をまだ使えるでしょうか。誰かの願いのために走り出した人は、自分の感情を現象として片づけられなくなると思うのです。授業から借りてきた蓋は、行動の前ではあまり役に立ちません。
そしてもう一つ気になるのは、小春の遠慮のほうです。半分に削った望みを、彼女はいつまで削ったままにしておくのか。名前で呼ばれたい、と二度目を言える日が来るのか。
第2話でかけるが手に入れたのは、船首の景色を文字と色と形で伝える方法でした。けれど花火は、音と光の出来事です。同じやり方が通用するのか、それとも別の渡し方を探すことになるのか。
思わず傘を差せたあの手が、次に何を差し出すのか。そこが第3話の焦点になると考えます。
この作品について、簡単に面白いと言ってしまっていいのか迷う、という声もありました。その迷いは、たぶん正しい種類の迷いです。自分の感じたものと向き合わされる作品を、私たちはそう多く持っていません。
かけ恋 原作ライトノベル|彼女が何を考えていたかを、文字で受け取るなら
原作は志馬なにがしさんによるライトノベルで、GA文庫から刊行されています。キャラクター原案はraemzさん。アニメは監督・吉崎譲さん、シリーズ構成・柿原優子さんという布陣です。
アニメで気になるのは、たぶん小春の内側ではないでしょうか。名前呼びを提案する前に何を考えていたのか。断られた瞬間、どう切り替えたのか。映像は表情を映しますが、引っ込めた望みの中身は、文字のほうが深く届く場面があります。
第2話の彼女に引っかかりが残った方は、原作で先の景色を覗いてみるのも一つの過ごし方だと思います。
かけ恋 配信情報|第1話と第2話を、続けて観るなら
第2話をより深く味わうなら、第1話から続けて観るのをおすすめします。白杖に手を伸ばすまで躊躇していた手と、雨の橋で思わず動いた手。この差は、並べて観たときにいちばんはっきり出ます。
配信はdアニメストア、U-NEXT、アニメ放題で毎週月曜22時から。AT-Xではバリアフリー音声ガイド版も放送されています。目の見えないヒロインを描く作品が、その手段を用意していること。これは触れておきたい一点です。
第2話は、片方だけが恋をしていた回ではありません。同じ高さまで上がった心のうち、片方だけが言葉にできた回でした。
あなたは、名前で呼びたいと言える側でしょうか。それとも、恥ずかしいから無理と答えて、その夜ひとりで高鳴っている側でしょうか。
次回もまた、この席の隣で。
※本記事は作品の考察であり、解釈は筆者個人のものです。作品の著作権はすべて権利者に帰属します。
本記事中の画像は、TVアニメ「透明な夜に駆ける君と、目に見えない恋をした。」公式サイトより引用・掲載しております。すべての著作権は権利者に帰属します。
©志馬なにがし・SBクリエイティブ/かけ恋製作委員会
PR / WHERE TO WATCH
『かけ恋』を、はじめから
透明な夜に駆ける君と、目に見えない恋をした。
一度でも考察を通してしまうと、2周目は初回とは違う場所で立ち止まることになります。冬月小春(早見沙織)と空野かける(入野自由)が距離を測り直していく物語。見返す前提で追える環境があると、この作品はまだ深くなります。
初回31日間無料 | スマホ・PC・テレビ対応 | 解約はいつでも
31日以内の解約なら料金はかかりません
※本ブロックはアフィリエイト広告を含みます。月額2,189円(税込)。配信状況・無料期間の条件は変更される場合があります。最新情報はU-NEXT公式サイトでご確認ください。
びわおちゃんブログをもっと見る
購読すると最新の投稿がメールで送信されます。
