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TVアニメ『透明な夜に駆ける君と、目に見えない恋をした。』第6話「空白のテラス席」を語ります。
「手、つないでもいいですか?」――かけるが差し出した問いに、小春はマンション前のキスで答えました。翌日、今度はかけるが大勢の視線を引き受け、小春への恋を声にします。第6話は、キスした小春と告白したかけるが、もう後戻りできない場所まで踏み込んだ回だったのです。今回はいつもより長くなります。二人の行動に込められた切迫感を、原作の未来まで含めて語り尽くします(ネタバレあり)。
※記事後半では、原作終盤の結婚・出産・小春の最期まで触れます。原作の結末を知りたくない方は、「原作結末の重大なネタバレ」の見出し手前までお読みください。
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- かけ恋第6話の感想|小春のキスは、かけるへの返事だった
- 雨宿りと寮の部屋|かけるの親切に混ざった「もう少し一緒にいたい」
- 小春がキスした理由|「顔を見る方法」に隠した切迫した恋
- 「こういう冗談には弱いですか?」の意味|小春は恋を冗談で終わらせなかった
- 空野かけるの性格考察|なぜ小春の好意に気づけないのか
- かけるの公開告白|「注目!」に込められた人物の変化
- 小春から返信がない理由|好きなのに答えられない時間
- 原作結末の重大なネタバレ|結婚・出産・小春の最期
- アニメ第1話冒頭の病室|わずか15秒に置かれた小春の願い
- 原作の小春とかける|再発後にあった約20年の家族の時間
- かけ恋第6話感想まとめ|返事がないのは、恋が終わったからではない
かけ恋第6話の感想|小春のキスは、かけるへの返事だった
雨で花火が中止になり、濡れた小春を心配したかけるは、寮で雨宿りをしようと提案します。その途中で、かけるはもう一度、小春へ問いかけました。
「手、つないでもいいですか?」
第5話に続いて、手を差し出したのはかけるです。
小春がかけるの手を求めたのではありません。かけるが、小春へ触れてもよいかと確かめました。ここには、目の見えない小春を安全に案内するという目的だけでなく、彼女と手をつないで歩きたいという、かける自身の気持ちがあります。
しかし小春は、その場で「私も好きです」とは答えません。
かけるの手を受け入れ、寮の部屋で来年の約束を交わし、小雨の帰り道を二人で歩く。そして自宅マンションの前まで来たところで、「目が見えなくても顔を見る方法がある」と告げ、かけるの頬へ手を伸ばします。
その先にあったのが、小春からのキスでした。
だから第6話のキスは、突然始まった出来事ではありません。かけるが差し出した手に対する、小春の答えです。
手をつないでもいいですか。
あなたへ近づいてもいいですか。
この関係を、友人のままでは終わらせたくないと思ってもいいですか。
かけるがまだ言葉にできていない問いまで、小春は受け取っていました。そして彼女は、かけるより先に覚悟を決めます。
手を差し出したのは、かける。唇を重ねて答えたのは、小春です。
第5話から第6話へ|触れたい気持ちを介助の言葉にしなかった
第5話の「手、繋いでもいい?」と、第6話の「手、つないでもいいですか?」。言葉はよく似ていますが、その重さは変わっています。
最初の手つなぎには、まだ偶然のような逃げ道がありました。花火大会の会場で人が多いから、目の見えない小春が安全に歩けるようにするためだから。二人とも、そう説明しようと思えばできたはずです。
けれど第6話で、かけるはもう一度同じ問いを口にします。
一度だけなら状況に必要な行動だったかもしれません。ところが、二度目には意志が宿ります。かけるは小春を支えるという名目だけでなく、自分が彼女と手をつなぎたいから、許可を求めたのです。
ここに、かけるの誠実さがあります。
目が見えない小春を前にして、「安全のためだから」と勝手に触れない。自分の行動が親切に見える状況だからこそ、彼女の意思を確認する。かけるは不器用ですが、相手の選択を飛び越えません。
小春も、その慎重さを分かっていたのでしょう。
だからマンション前では、今度は自分が動きました。かけるがいつまでも越えられない境界線を、小春のほうから越えたのです。

第6話の核心|二人は同じ方法で告白しなかった
小春は触れることで伝え、かけるは声にすることで伝えました。
この対比が、第6話を単なる両想い回では終わらせません。
目の見えない小春は、かけるの顔へ触れます。これまで周囲の人から手を差し出されることもあった彼女が、このときは自分から手を伸ばし、自分の望む距離を決めました。
一方のかけるは、これまで人の顔色をうかがい、目立つことを避けてきた青年です。その彼が翌日、もんじゃ焼き店の客たちへ向かって「注目!」と叫び、小春の名前を口にします。
小春は、触れられる側から触れる側へ。
かけるは、見られることから逃げる側から、視線を集める側へ。
二人はそれぞれ、自分が恐れていた境界線を越えました。第6話は二人の関係が何となく変わった回ではありません。小春とかけるが、それぞれの弱さを抱えたまま恋へ踏み込んだ回だったのです。
雨宿りと寮の部屋|かけるの親切に混ざった「もう少し一緒にいたい」
雨宿りを提案した理由|小春を帰せなかったかける
花火大会は、雨によって中止になりました。楽しみにしていた花火は上がらず、小春の服や髪は濡れ、身体も冷えていきます。
寒そうにしている彼女を見たかけるは、このままマンションまで歩かせれば風邪をひいてしまうと考え、寮での雨宿りを提案しました。
ここでのかけるの行動は、まず親切として正しいものです。二人きりになるため、小春を自室へ誘い込んだのではありません。濡れて寒そうな彼女を放っておけなかったから、近くにある自分の寮へ連れていったのです。
ただし、その親切の中に恋心がなかったわけでもありません。
小春を早く安全な場所へ連れていきたい。それと同時に、もう少し彼女と一緒にいたい。かけるの胸には、相反するように見える二つの気持ちが並んでいます。
恋をすると、気遣いと願望はきれいに分かれてくれません。相手が心配だからそばにいたいのか、そばにいたいから必要以上に心配しているのか、自分でも分からなくなることがあります。
かけるは小春を心配していました。それは間違いありません。そして、雨によって延長された二人の時間を、どこかで終わらせたくないとも感じていました。
雨は花火を奪いましたが、かけるがまだ口にできない「帰ってほしくない」を、代わりに叶えてしまったのです。
「エッチです」|小春の軽口に振り回されるかける
寮の部屋で、小春はかけるのベッドに座ります。姿勢を変えた拍子にスカートがずれそうになり、かけるは慌てて声をかけました。
「あっ……。その、下着……見えそうだから」
小春は「見えました?」と尋ねますが、かけるは見える前に忠告したのだと必死に否定します。それでも小春は、さらりと言いました。
「エッチです」
「信じてあげましょう!」
見ていないのに疑われ、信じてもらう側なのに、なぜか完全敗北したような空気になる。小春の軽口に対し、かけるには反撃する余裕がありません。
その直後、小春は雨で花火が見られなかったことに話を移し、「残念でしたね」と口にします。ところが、スカートの話をまだ頭の中で引きずっていたかけるは、別の意味に受け取って赤面してしまいました。
小春は花火の話をしています。
かけるだけが、まだ下着の話から帰ってきていません。
彼のモノローグにあるとおり、これは「死にたいくらい恥ずかしい」早とちりです。小春が色っぽい誘いを重ねたのではなく、恋愛経験の乏しいかけるが、一人で勘違いして一人で追い詰められています。
何とも可愛らしいチェリーボーイぶりではありませんか。
もっとも、笑っていられるのは見ている私たちだからです。好きな人が自分のベッドに座り、突然「エッチです」と言ってきたら、平静を保てる人がどれほどいるでしょう。かけるの頭の中では、雨天中止になったはずの花火が別の意味で暴発していたのかもしれません。
来年の花火の約束|恋人になる前に作られた二人の未来
寮の部屋で、小春は花火研究会について話します。
小春は花火が好きです。しかし、目の見えない自分が入会を希望したら断られるのではないかという不安も抱えています。火を扱う活動だからこそ、周囲が安全を理由に彼女を遠ざける可能性は否定できません。
そこで、かけるは「一緒に入ろうか」と提案します。
小春はすぐに「約束ですよ」と返しました。
この約束が胸に残るのは、二人がまだ恋人ではないからです。付き合う約束より先に、来年を一緒に過ごす約束が生まれています。
来年も大学にいる。
来年も二人で話している。
来年も一緒に花火へ手を伸ばしている。
小春の「約束ですよ」は、軽い念押しではありません。今夜だけの親切で終わらせないでほしいという願いです。かけるが小春を心配している今だけでなく、雨が上がったあとも、自分の隣にいてくれるのかを確かめています。
かけるは、小春の不安を「僕が守る」と包み込んだのではありません。「一緒に入ろう」と、同じ場所へ並ぶことを選びました。
支える人と支えられる人ではなく、二人とも花火研究会の新入部員になる。それは小さな違いに見えて、二人の関係を決める大切な言葉です。
小春がキスした理由|「顔を見る方法」に隠した切迫した恋

キスしたのは小春から|マンション前だから分かる彼女の覚悟
小春のキスは、寮の部屋では起きていません。
雨が弱まったあと、かけるは小春をマンションまで送りました。帰り道、小春はかけるに彼女がいるのかと尋ねます。冗談を交わしながらマンション前までたどり着き、あとは別れるだけとなったところで、小春が立ち止まりました。
この場所には、大きな意味があります。
寮の部屋であれば、二人きりの空気に流されたと解釈できたかもしれません。濡れた服、近すぎるベッド、雨によって閉じ込められた時間。それらが偶然キスを呼び込んだようにも見えたでしょう。
しかし、マンション前の小春には帰る選択肢がありました。
もう安全な場所まで着いています。かけるの助けを必要とする時間も終わっています。そのまま礼を言って部屋へ戻ることができたのに、小春は自分から別れを引き延ばしました。
「目が見えなくても、顔を見る方法があるって知っています?」
小春はかけるの許可を取り、彼を自分の手が届く高さまでしゃがませます。両手で顔へ触れ、そのまま唇を重ねました。
誘導したのも、触れたのも、キスしたのも小春です。
この場面の主語を曖昧にしてはいけません。かけるが小春へキスしたのではなく、小春がかけるへキスしたのです。
「顔を見たい」という口実|触れるために必要だった最後の一歩
目の見えない小春にとって、手で顔の輪郭を確かめることは、相手の姿を知る一つの方法です。だから「顔を見る方法がある」という言葉そのものは嘘ではありません。
しかし、あのとき小春が知りたかったのは、かけるの顔立ちだけではありません。
彼女は、かけるへ触れたかった。
自分の息が届く距離まで彼を引き寄せ、友人ではない気持ちを伝えたかった。けれど、いきなり「キスをしてもいいですか」と言えるほど余裕があったわけではありません。
「顔を見たい」は、小春が一歩を踏み出すために必要だった口実です。
それを恋愛の駆け引きと呼んでしまえば、小春の切迫感が薄れてしまいます。彼女はかけるを翻弄して楽しんでいるのではありません。むしろ、自分の恋が届かなかったときに傷つくのは小春です。
それでも彼女は、かけるの顔へ手を伸ばしました。
かけるが「手、つないでもいいですか?」と問いかけ、慎重に差し出した思いに対して、小春は自分ができる最大限の行動で答えました。

あのキスは、冗談を装った誘惑ではありません。小春が自分の時間を賭けて伝えた、切迫した告白だったのです。
小春のタイムリミット|「いつか伝える」を信じられない
かけるには、時間があります。
相手の気持ちを慎重に確かめ、少しずつ距離を縮め、いつか自信が持てたら告白する。彼の中では、恋はゆっくり育てていけるものなのでしょう。
けれど、小春に流れている時間は違います。
小春は病気を経験し、視力を失いました。昨日までできていたことが、明日もできるとは限らない。その現実を、彼女は身体で知っています。
第6話の時点で、小春が自分の余命を具体的に悟っているとまでは言えません。それでも彼女にとって、未来は無条件に続くものではありません。
来年の花火。
次の季節。
好きな人へ気持ちを伝える日。
「いつか」という言葉が必ず実現するわけではないことを、小春はかけるより早く知ってしまいました。
だから待てなかったのです。
かけるは慎重で、優しく、相手の気持ちを勝手に決めつけません。その誠実さは小春にも伝わっているでしょう。しかし同時に、このままではいつまでも恋が動かないことも分かっています。
かけるが差し出した手を握るだけでは足りない。
彼がまた「友人としての親切だったのかもしれない」と引き返してしまう前に、自分の気持ちを届かせなければならない。
小春のキスには、「あなたが好きです」とともに、「今、伝えなければ間に合わない」という切迫感があります。かけるより迫っている人生のタイムリミットが、彼女をマンション前で立ち止まらせたのです。
「こういう冗談には弱いですか?」の意味|小春は恋を冗談で終わらせなかった

帰り道の言葉を、キスのあとに返した小春
マンションへ向かう帰り道で、小春はかけるに恋人がいるのかを尋ねました。かけるが「いない」と答えると、彼女は思わず「よかった」と漏らします。
ここまで言われても、かけるは確信を持てません。
「冬月が僕のことを好きなのかと」
「こういう冗談には弱いんだ」
小春の好意へ触れながら、それを冗談として処理してしまいます。かけるは、自分に向けられた恋を都合よく信じることができないのです。
しかし、小春はその言葉を忘れませんでした。
マンション前でキスをしたあと、かけるへ返します。
「かける君は、こういう冗談には弱いですか?」
この台詞は、本気のキスを冗談でごまかしたものではありません。
かけるが先に口にした言葉を、小春がキスという答えを添えて返したのです。小春は、からかわれたまま終わりません。かけるが冗談へ戻した好意を、もう一度恋として目の前へ置きました。
「私があなたを好きだと思ったのでしょう?」
「それなら、もう勘違いではありません」
言葉では「冗談」と呼びながら、行動は一切逃げていません。小春は、かけるが曖昧にした問いへ、唇で答えたのです。
冗談の形を借りた理由|傷つかないためではなく、届かせるため

小春の言い方には、もちろん照れもあります。キスした直後に「好きです」と真正面から言うより、かけるの言葉を借りたほうが、普段の二人らしく振る舞えます。
しかし、ここを「拒絶されたときの逃げ道」として読むだけでは、小春の強さを取り逃がします。
逃げたいのであれば、キスをしないという選択肢がありました。顔へ触れるだけで終わらせることも、そのままマンションへ帰ることもできたのです。
それでも小春はキスをしました。
「冗談」という言葉は、本気を薄めるためではなく、かけるの言葉を奪い返すために使われています。彼が冗談として逃がした恋へ、小春が現実の重さを与えたのです。

空野かけるの性格考察|なぜ小春の好意に気づけないのか
かけるは鈍感ではなく、相手の気持ちを決めつけられない
かけるの反応を見ていると、「そこまでされて、まだ分からないのですか」と言いたくなります。
手をつなぐことを受け入れてもらい、彼女の有無を尋ねられ、「よかった」とまで言われている。それでもかけるは、小春が自分を好きだと確信できません。
この朴念仁ぶりは、単なる恋愛経験の不足だけではないでしょう。
かけるは、人の顔色をうかがって生きてきました。両親の離婚を経験し、自分の言葉や行動が相手を困らせないか、傷つけないかを先回りして考えます。自分の望みを主張して関係が壊れるくらいなら、最初から引いてしまう人です。
そんなかけるにとって、「小春は自分を好きなはずだ」と決めつけることは、とても怖い行為です。
優しくされたから、自分を好きなはずだ。
手を握ってくれたから、次はキスしてもよいはずだ。
目が見えない小春には、自分が必要なはずだ。
かけるは、そのような自分本位の解釈をしません。好意らしきものが見えても、友情かもしれない、感謝かもしれないと考え、自分の願望だけで結論を出さないのです。
恋愛では、あまりにももどかしい。
しかし、人としては信頼できる。
この二面性が、空野かけるという人物の核です。
小春へ急に触れない理由|障害を恋の近道にしない
もんじゃ焼き店で、かけるは鳴海と早瀬に小春との距離を縮められない理由を語ります。

目が見えない小春に突然触れたら、怖がらせてしまうかもしれない。相手の動きを目で確認できない状態で迫られたら、それは恐怖になるかもしれない――。
かけるは、小春の障害を理由に恋愛対象から外しているのではありません。小春を一人の女性として強く意識しているからこそ、自分の恋心を一方的に押しつけることを怖れています。
その慎重さは、ときに小春を苛立たせるでしょう。
彼女は自分で選びたいのに、かけるが「怖がらせてはいけない」と先回りすれば、恋愛の主体から外されかねません。守ろうとする気持ちが強すぎると、小春の意思を見落とす危険もあります。
だから小春は、自分からキスしました。
私はあなたを怖がっていない。
私は触れられるのを待っているだけではない。
私の身体へ誰を近づけるかは、私が決める。
小春のキスは、かけるへの告白であると同時に、彼の過剰な遠慮へ突きつけた答えでもあったのです。
かけるの慎重さは、恋の始まりでは鈍感に見えます。しかし、相手の気持ちを勝手に決めない姿勢は、長い関係の中で信頼へ変わります。この不器用さが小春との結婚を支えた理由については、原作の未来とあわせて後半で触れます。
かけるの公開告白|「注目!」に込められた人物の変化
ウーロンハイの誤配|酔いが作ったのは恋ではなく勇気
小春からキスされた翌日、かけるは鳴海に相談します。もんじゃ焼き店には早瀬も合流し、かけるの人生を左右する恋愛相談は、食文化をめぐる騒がしい会話に飲み込まれていきました。
しかも、かけるが頼んだウーロン茶は、店員の手違いでウーロンハイになっていました。本人が気づかないまま口にし、少しずつ酔いが回っていきます。
ここで大切なのは、酒が小春への恋を生んだわけではないということです。
かけるはすでに、小春が好きでした。小春の笑顔や生き方に惹かれ、自分にはない強さを見つめていた。その気持ちを「好き」と認め、外へ出すためのブレーキだけが、少し緩んだのです。
酔いが作ったのは恋ではありません。
胸の奥に閉じ込めていた言葉が通れる、ほんの小さな隙間でした。
小春のどこが好きなのか|かけるが見ていたもの
早瀬から小春のどこが好きなのかと問われ、かけるは語り始めます。
小春はよく笑う。
目が見えなくなっても前を向いている。
自分より自由で、自分にないものを持っている。
かけるが惹かれたのは、小春を「支えてあげたい」と思ったからではありません。自分にはできなかった生き方を、小春が続けているように見えたからです。
両親の離婚をきっかけに心を縮め、人の顔色をうかがってきたかける。その彼から見ると、視力を失っても大学へ通い、おしゃれをし、花火を見たいと願い、自分から人の輪へ入っていく小春は、眩しいほど自由です。
ただし、小春はいつも明るく、強くある必要はありません。
病気を怖がる日も、笑えない日も、誰にも会いたくない日もあります。かけるが本当に小春と生きるためには、自分を救ってくれる強い小春だけでなく、強くいられない彼女も受け止めなければなりません。
原作の未来で二人が夫婦になれたのは、かけるの憧れが恋の入口で終わらなかったからです。小春が光を失いそうになる時間にも、彼は隣に残りました。
「注目!」と叫んだのはかける|視線から逃げてきた青年の告白
早瀬はスマートフォンを構えます。
そして、もんじゃ焼き店に響いたのが、この一言でした。
「注目!」
呼びかけたのは、空野かける本人です。
早瀬は動画を撮影しましたが、店内の客たちを振り向かせたのはかけるでした。少し酔っていたとしても、最後の一線を越えたのは彼自身です。
これまでのかけるは、人の視線を避けてきました。
目立たないようにする。
失敗して笑われないようにする。
自分の言葉で誰かを困らせないようにする。
そんな彼が、自分から店内すべての視線を集めます。
「僕、空野かけるは――冬月小春さんのことが好きです!」
「付き合いたいと思っています!」
「僕と、付き合ってください!」
言葉を噛み、周囲から笑いや声援が飛ぶ。洗練された告白ではありません。小春はその場におらず、鉄板ではもんじゃが焼け、知らない客たちまで恋の証人になっています。
それでも、かけるは小春の名前を叫びました。
小春はマンション前で、触れることによって逃げ道を捨てました。かけるはもんじゃ焼き店で、見られることによって逃げ道を捨てます。
小春のキスに、かけるが告白で答えた。
ここで初めて、二人の思いは同じ強さで差し出されたのです。
小春から返信がない理由|好きなのに答えられない時間

告白動画の問題|かける本人から直接届いた言葉ではない
かけるの告白を撮影した早瀬は、その動画を小春へ送ります。
告白したのはかけるですが、届けたのは早瀬です。
ここには、見過ごせない距離があります。
小春のキスは、彼女自身がかけるの前に立ち、自分の意思で届けたものでした。一方、かけるの告白は動画です。しかも、本人は告白の練習をしていたつもりであり、小春へ送信したのは小春の友人の早瀬でした。
小春から見れば、判断しにくいでしょう。
酔った勢いだったのか。
友人に乗せられただけなのか。
大勢の前では言えるのに、なぜ自分には直接言ってくれないのか。
かけるの言葉が本心であることを、私たちは知っています。しかし小春は、その場にいませんでした。目が見えない彼女は彼の表情を見ることもできません。動画の音声から伝わるものだけで、自分の人生に関わる返事をしなければならないのです。
すぐに返信できなかったとしても、不思議ではありません。
キスした小春が返信しない|拒絶ではなく未来を考えた沈黙
小春はすでに、かけるへキスしています。
だから、返信がないことを「気持ちがなかった」と受け取ることはできません。彼女の答えは、マンション前で唇を重ねた時点で、かけるへ届いています。
ただし、好きだと伝えることと、交際を始めることは同じではありません。
キスは、「今、あなたが好きです」と伝えられます。
けれど「付き合ってください」への返事には、その先の時間が含まれます。明日も会い、来年の花火を待ち、病気や障害を含む自分の生活へ、かけるを迎え入れることになる。
小春は自分の恋だけでなく、かけるの未来まで考えたはずです。
かけるは、自分と一緒にいることで何を背負うのか。
病気が再発したらどうなるのか。
自分が先にいなくなったら、彼をどれほど傷つけるのか。
小春にとって交際を受け入れることは、幸せだけを受け取る選択ではありません。いつか訪れるかもしれない喪失まで、かけるへ渡す選択です。
小春は好きだからキスをしました。
そして、好きだからすぐには返信できませんでした。
恋が足りなかったのではありません。恋だけで決めてよいのか分からないほど、かけるを大切に思ってしまったのです。
「空白のテラス席」の意味|二人の間に残された返事の席

第6話のサブタイトルは「空白のテラス席」です。
この「空白」を、抽象的な言葉だけで飾る必要はありません。第6話には、目に見えるほど具体的な空白があります。
小春はキスをした。
かけるは告白した。
早瀬が動画を送った。
それでも、小春から交際への返事は届かなかった。
二人の気持ちは、すでに同じ方向を向いています。しかし、二人の関係を決める言葉だけが空いています。
かけるの告白を受けて、小春が座るはずの場所。
「はい」と返すのか、それとも別の道を選ぶのか。そこだけは、かけるにも早瀬にも埋められません。
好きだからといって、相手の答えを先回りしてはいけない。
小春がキスしたからといって、交際へ同意したと決めつけてもいけない。
最後の席には、小春自身が座らなければなりません。
第6話が返信のない数日間で終わったのは、恋を成立させる最後の選択が、小春へ返されたからです。
原作結末の重大なネタバレ|結婚・出産・小春の最期
ここから先では、原作における小春のがん再発、その後の治療、かけるとの結婚、子どもの誕生、小春の最期まで明かします。
アニメで初めて物語を追っている方、原作終盤の時間構成を知らずに楽しみたい方は、ここでお戻りください。
アニメ第1話冒頭の病室|わずか15秒に置かれた小春の願い
病室らしき場面|葬儀が描かれたわけではない
アニメ第1話の冒頭には、病院の病棟と思われる場所が映ります。
ベッドに横たわっているのは、小春と思われる女性。そのそばの椅子には、早瀬と思われる女性が座っています。彼女は視聴者へ背を向け、ベッドの女性のほうを見ています。
この映像は、わずか約15秒です。
現時点のアニメで葬儀が描かれたわけではありません。二人が本当に小春と早瀬なのか、その場面が物語のどの時点に置かれているのかも、映像だけでは確定できません。
そこへ早見沙織さんのナレーションが重なります。
「私の望みは、死んでからもなお、生き続けること」
その言葉を第6話のキスへ重ねると、小春がなぜ待てなかったのかが、さらに鮮明になります。
小春が望んでいるのは、ただ長く生きることだけではありません。
誰かと関わり、誰かの記憶に残り、自分がいなくなったあとも、その人の中で生き続けることです。
かけるへキスした瞬間、小春は自分の存在を彼の人生へ刻みました。
雨の匂い。
頬に触れた指。
突然重なった唇。
「こういう冗談には弱いですか?」という声。
たとえ何年たっても、かけるはあのマンション前を忘れないでしょう。小春は、キスによって恋を伝えると同時に、自分が生きた瞬間をかけるの記憶へ残したのです。
原作の小春とかける|再発後にあった約20年の家族の時間
小春はがん再発直後に亡くならない
原作で、小春は大学時代にがんが再発します。
しかし、再発後すぐに亡くなるわけではありません。
小春は治療を経て、かけると結婚します。二人の間には子どもが生まれ、家族として約20年を共に過ごします。そして、その時間を生きたあと、小春は若くして亡くなります。
この順序は重要です。
小春の人生は、がんの再発によってただちに終わったのではありません。再発と死の間には、夫婦になった時間があり、親になった時間があり、家族として積み重ねた生活がありました。
第6話で交わされた「来年」の約束は、病気によってすぐに消えてしまう夢ではありません。
二人は、その先へ進みます。
恋人になり、夫婦になり、子どもを育てる。マンション前の短いキスは、約20年にわたる家族の時間へ続く、最初の扉だったのです。
原作が隠したもの|小春の死ではなく、生きた年月
原作終盤の仕掛けは、「実は小春が死んでいなかった」という死のフェイクではありません。
大学時代のがん再発から小春の死へ、時間が一気に進んだように見せることで、読者に死亡時期を錯覚させる構成です。
その間に隠されていたのが、約20年です。
小春とかけるが結婚したこと。
子どもが生まれたこと。
家族として暮らしたこと。
何気ない食事や会話を重ねたこと。
原作が伏せていたのは、小春の死ではありません。小春が死ぬまで、かけると共に生きた年月です。
病気を扱う物語では、どうしても「いつ亡くなるのか」に意識が向きます。しかし、小春の人生を死の時点から逆算するだけでは、彼女が選んだものを見失います。
小春は、病気に奪われるまで待っていた女性ではありません。
自分からかけるへ触れ、自分から恋を選び、結婚し、子どもを迎えました。限りがあると知っていたからこそ、自分の人生を誰と生きるのかを選び続けたのです。
かけるの朴念仁が支えた結婚|分からないから、決めつけなかった
大学時代のかけるは、小春の分かりやすい好意にさえ気づけない朴念仁でした。その鈍さに、私たちは何度も焦らされます。
けれど約20年という時間を考えると、彼の不器用さが持つ意味も変わります。
かけるは、相手の気持ちを簡単に分かったつもりになりません。
病気だから、きっとこうしてほしい。
目が見えないから、自分が守らなければならない。
妻だから、夫の助けを喜ぶはずだ。
彼は、そのように決めつけない人です。
小春の身体が変化し、できることや必要な助けが変わっても、その都度、小春自身の答えを聞く。間違わない人ではなく、間違えたときに聞き直せる人として、彼女の隣にいたのでしょう。
「手、つないでもいいですか?」
第6話のこの問いには、かけるという人の生き方が、そのまま表れています。
触れたいからといって、勝手に触れない。
助けたいからといって、相手の望みを決めつけない。
そばにいたいからこそ、「僕が必要でしょう」と思い込まない。
まず小春に尋ね、その答えを待つ。恋人になっても、夫婦になっても、病気が再発しても、その姿勢は変わらなかったはずです。
小春がかけるへ人生を預けられたのは、彼が何でも分かってくれる男性だったからではありません。分からないことを自分の都合で埋めず、何度でも小春に問いかけられる男性だったからです。
第6話では、かけるの問いに小春がキスで答えました。
その後の約20年では、きっと何度も立場が入れ替わったのでしょう。
今日は手を借りたい。
今日は一人で歩きたい。
今日は病気について話したい。
今日は何も聞かず、隣にいてほしい。
小春が差し出す一つひとつの答えを、かけるは自分に都合のよい物語へ変えずに受け取ったはずです。
恋の始まりでは、小春にキスされても意味を確信できないほど不器用だった青年。その不器用さが、長い夫婦生活では、相手の意思を奪わない優しさへ変わっていきます。
小春から見れば、かけるは自分を救ってくれる王子様ではありません。
自分がどのように生きたいのかを、最後まで尋ね続けてくれる人だったのです。
かけ恋第6話感想まとめ|返事がないのは、恋が終わったからではない
小春のキスとかけるの告白|二人はもう気持ちを隠していない
「手、つないでもいいですか?」――かけるが差し出した問いに、小春はマンション前のキスで答えました。翌日にはかけるも、人の視線から逃げてきた自分を越え、小春への思いを声にします。
小春は触れることで、かけるは見られることで、それぞれの逃げ道を捨てました。二人は同じ言葉も、同じ方法も使っていません。それでも、「あなたが好きです」という答えだけは、すでに互いへ差し出していたのです。
「空白のテラス席」の意味|二人に必要だった返事の時間
それでも、小春から交際への返事は届きませんでした。
小春は直接触れて気持ちを伝えましたが、かけるの告白は早瀬のスマートフォンを介して届きました。だから最後に必要なのは、返信を急かすことではありません。二人がもう一度向き合い、自分たちの言葉で答えを交わすことです。
第6話は、恋が実った回でも、終わった回でもありません。小春がキスをし、かけるが告白し、それでも返事だけが届かなかった回です。
原作で二人が結婚し、家族として約20年を生きる未来は、この沈黙の先にあります。しかし、その未来は最初から用意されていたものではありません。病気も、障害も、いつか訪れる別れも抱えながら、それでも互いを人生へ迎えると決めたから生まれた時間です。
「手、つないでもいいですか?」
かけるが最初に差し出した問いは、やがて「あなたと生きてもいいですか」という問いへ変わっていきます。その答えを誰かに決めてもらうのではなく、二人で選ぶために――第6話の最後には、返事のない時間が必要だったのです。
本記事中の画像は、TVアニメ「透明な夜に駆ける君と、目に見えない恋をした。」公式サイトより引用・掲載しております。すべての著作権は権利者に帰属します。
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