薬屋32話『皇太后』解説：先帝への呪いの真実と腐敗しない遺体の謎

夕刻の翡翠宮に訪れた皇太后

第32話『皇太后』は皇太后の人物像、先帝を取り巻く人間関係が理解できていないと話の内容についていけない回になっています。そのため、今回は「ネタバレ」を全面的にやりながら（やらなければ解説にならないので）のお話しになります。

まだアニメを見ておらずネタバレが嫌いな方はアニメ視聴後に再びお越しください。

なお、文中記載事項は原作に基づく記述となっており、現段階ではアニメでは語られていない内容を多く含んでいます。

皇太后の突然の来訪

物語はある日の夕刻、玉葉妃の翡翠宮へ皇太后が訪ねてきます。その目的は猫猫にある依頼をするためでした。

猫猫が毒見をしていると、皇太后に声をかけられます。皇太后からの視線に気づいた玉葉妃は、鈴麗公主を連れて部屋を下がります。鈴麗公主は玉葉妃の娘であり、皇帝との間に生まれた子です。

「先帝に呪いをかけたのか？」衝撃の依頼

そして皇太后・安氏は猫猫に対して、誰もが予想だにしない衝撃的な言葉を投げかけました。

「私は、先の帝に呪いをかけたのかしら？」

この唐突な問いかけに、猫猫は戸惑いを隠せません。皇太后は過去に先帝を強く憎んでいたことがあり、その思いが呪いとなったのではないかと疑っているようでした。

腐敗しない遺体の謎

皇太后が「呪い」の根拠として挙げたのは、先帝の遺体が通常とは異なる状態だったという事実でした。先帝の遺体は1年間腐敗しなかったという不可解な現象が起きていたのです。

通常、遺体は時間経過とともに腐敗するものですが、先帝の遺体は「生きていた時と同じ姿のまま」霊廟に安置されていたといいます。これが何らかの毒や薬によるものなのか、それとも本当に呪いの力なのか、猫猫はこの謎を解き明かすことになります。

「10歳の妃」から「権力者」へ—皇太后の苦難の道のり

10歳での妊娠と命がけの出産

皇太后・安氏（あんし）は、わずか10歳という幼さで後宮に入りました。表向きは異母姉の侍女として入内しましたが、実際には野心家の父親が先帝の幼女趣味を利用して娘を送り込んだのです。安氏は幼いながらも、先帝が「女帝の傀儡」として政治的才覚がなく、成人女性に恐怖を抱く弱い人物であることを見抜いていました。

後宮に入った安氏はすぐに先帝の寵愛を受け、すぐに妊娠します。10歳という幼い体では通常の出産が不可能だったため、猫猫の養父である医官の羅門（らもん）が帝王切開を執刀することになりました。

成長と忘却—先帝との関係悪化

安氏が成長して大人の女性になると、先帝は彼女に恐怖を抱き、次第に会いに来なくなりました。ある日、通路で鉢合わせした際、安氏は「皇后である自分のことは覚えているだろう」と期待しましたが、先帝は彼女に気づくこともなく素通りし、別の幼い少女のもとへ向かってしまったといいます。

この出来事は安氏に深い傷を残しました。自分が10歳で命がけの出産をしたにもかかわらず、先帝に忘れられ、新たな幼い少女たちが次々と後宮に入れられる様子を目の当たりにして、安氏は絶望と怒りを抱くようになります。

復讐と第二子の誕生

怒り狂った安氏は、先帝への復讐を決意します。彼女は先帝に強引に夜伽を強要し、その行為の最中も恐怖に怯える先帝をいたぶり、「自分という存在を忘れられないように」と呪詛の言葉を吐き続けました。この結果、先帝は精神を病み、安氏は第二子を妊娠することになります。

子の取り替えと秘密の策略

第二子を出産する際、安氏は運悪く阿多妃と同時に産気づきます。安氏には帝王切開の経験があり出産に不安があったこと、また皇后として皇帝の子を産むという立場から、安氏の出産が優先されました。そのため、阿多妃の出産を担当していた医官が無理やり連れていかれ、阿多妃は放置されることになります。

その結果、安氏は皇弟を、阿多妃は次の東宮をそれぞれ出産しますが、初産にもかかわらず放置された阿多妃は子宮を失うほどの難産となり、二度と子供を産めない体になってしまいました。

安氏は先帝との間に生まれた子を愛することができませんでした。そんな姑の様子に気づいた阿多妃は、産後の回復が思わしくない体を引きずりながら安氏との二人きりのお茶会に参加し、赤子の取り替えを提案します。安氏はこの提案を受け入れ、二人は赤子を交換しました。こうして、阿多妃の子は「先帝と皇太后の子」という設定で育てられることになり、これが後の壬氏となります。

権力者としての道のり

先帝の死後、安氏は皇太后として後宮での権力を確立していきます。彼女は診療所を設立し、先帝のお手付きになったために宮廷から出られなくなった元侍女たちの働き場所を作りました。また、現皇帝の母として政治的影響力を持ち、後宮内での立場を強固なものにしていきました。

10歳で後宮に入り、命がけの出産を経験し、先帝に忘れられるという苦難を乗り越えた安氏は、皇太后として強大な権力を手に入れました。しかし、その心には先帝への複雑な感情と、自らの行動への後悔が常に付きまとっています。彼女の人生は、幼い妃から権力者へと上り詰めた苦難の道のりであり、その過程で多くの犠牲と秘密が生まれたのです。

「女帝の傀儡」と呼ばれた悲劇の皇帝

『薬屋のひとりごと』に登場する先帝は、政治的才覚を持たず、母である「女帝」の意のままに操られた悲劇の皇帝でした。彼の人生と周囲の人々との関係は、後宮の複雑な権力構造と人間模様を映し出しています。

女帝の影に生きた無力な皇帝

先帝は「愚帝」「昏君（ばかとの）」と呼ばれ、帝の器を持ち合わせない人物でした。実権を握っていたのは「女帝」と呼ばれた先帝の母親で、彼女の言われるままに動いていた先帝は「女帝の傀儡」とも揶揄されていました。

彼は本来、皇帝としての器ではなかったものの、異母兄弟が次々と夭折したことで、唯一の生存者として即位することになりました。しかし、実際の政治は女帝が握っており、先帝自身はほとんど決定権を持たないまま過ごしていました。

幼女嗜好と歪んだ後宮制度

先帝は極端な幼女嗜好を持ち、後宮には幼い少女ばかりを集める異常な体制を築き上げました。彼は成人女性に対して興味を示さず、「14歳を超えた妃には興味を示さなくなる」という特徴がありました。

この背景には、彼が母である女帝に対して強い恐怖を抱いていたことが関係していると考えられています。成人女性への恐怖心が、幼い少女への嗜好として表れたのです。

皇太后・安氏との複雑な関係

皇太后・安氏は、わずか10歳という幼さで後宮に入り、先帝の寵愛を受けました。彼女は幼いながらも「子を成し、皇后として地位を得る」という明確な目標を持っていました。

安氏はすぐに妊娠し、10歳という幼い体では通常の出産が不可能だったため、医官の羅門による帝王切開で現在の皇帝を出産しました。この手術により、羅門は後に罰として後宮から追放され、片足の膝骨を抜かれるという残酷な肉刑を受けることになります。

安氏が成長して大人の女性になると、先帝は彼女に恐怖を抱き、次第に会いに来なくなりました。これに怒った安氏は、先帝への復讐として強引に夜伽を強要し、その結果として第二子を妊娠します。

孤独な晩年と謎の死

先帝は晩年、自らの後宮政策が招いた混乱や、皇太后との関係の悪化によって次第に孤立していきました。彼は自室にこもり、ひたすら「絵」を描くようになりました。その絵には女性が描かれていましたが、それが誰なのかについては議論が分かれています。

先帝の死後、その遺体は1年間腐敗しなかったという不可解な現象が起こりました。これにより、皇太后は自分が先帝に「呪い」をかけたのではないかと疑い、猫猫にその調査を依頼することになります。

先帝にまつわる人物関係

先帝の人生は、母親の支配と自身の弱さ、そして幼女嗜好という歪んだ性質によって形作られました。彼は権力を持ちながらも実質的には無力であり、周囲の女性たちに翻弄された悲劇の皇帝だったのです。彼の死後も、その影響は現在の宮廷に色濃く残り続けています。

「憎しみが生んだ呪い」—皇太后の告白

皇太后は猫猫に「私は、先の帝に呪いをかけたのかしら？」と問いかけます。彼女は幼い頃から先帝に仕え、子を産み、そして見捨てられるという苦難の道を歩んできました。その過程で先帝に対して強い憎しみを抱き、「いなくなればいい」と願い続けていたのです。

この憎しみが本当に「呪い」となって先帝の死と遺体の異常をもたらしたのか、それとも単なる偶然なのか—猫猫はこの謎を解き明かすことになります。

先帝の死の真相と皇太后の心の闇。後宮の謎は、さらに深まるばかりです。

今回の『薬屋のひとりごと』第32話「皇太后」はいかがでしたか？ 皇太后・安氏と猫猫のやり取りが印象的でしたね。「私は先の帝に呪いをかけたのかしら？」という衝撃的な依頼と、1年間腐敗しなかった先帝の遺体の謎。皇太后の若さと威厳、そして過去の悲劇が垣間見える回でした。

次回は猫猫が「呪い」の正体に迫る展開が待っています。先帝の死の真相や、壬氏の出自に関わる重要な伏線も明らかになるかもしれません。猫猫の冷静な判断力と洞察力が、この複雑な謎をどう解き明かすのか、目が離せません。

原作小説はヒーロー文庫から刊行中で、コミカライズは「ビッグガンガン」と「サンデーGX」の2種類があります。ガンガン版はねこクラゲ氏の美麗な作画と原作に忠実なストーリー展開が特徴で、サンデーGX版はテンポの良い展開とミステリー要素が強調されています。どちらも魅力的なので、ぜひ両方チェックしてみてください。シリーズ累計発行部数は3800万部を超える大人気作品です。

アニメはどちらをベースにしているの？

アニメ『薬屋のひとりごと』は、2種類のコミカライズ版のどちらかをベースにしているわけではなく、原作小説を直接アニメ化しています。

アニメ版の原作は、漫画版のどちらでもなく、現在第15巻まで刊行されている小説版の「薬屋のひとりごと」です。アニメと漫画の内容はほぼ同じですが、これはどちらの漫画も原作小説を忠実に漫画化しているからであり、どちらかの漫画のストーリーを採用しているわけではありません。

アニメのキャラクターデザインについても、漫画版のビジュアルが使われているのではなく、小説版のイラストをベースとしたデザインとなっています。アニメのクレジットには、「キャラクター原案」として小説版のイラストを手掛けたしのとうこ氏、「キャラクターデザイン」として中谷友紀子氏の名前が記載されています。

プロデューサーの菱山光輝氏は、本作の制作にあたり「原作小説に誠実にあること」を重要なテーマとして掲げました13。原作はコミカライズやドラマCD化など、さまざまに展開して多くのファンを獲得してきた作品であり、ファンの一人一人にそれぞれの解釈が生まれているため、チーム全体としてあくまでベースは原作小説であるという意識を持つことを重要視したとのことです。

ただし、アニメのコメディ描写や衣装、髪型などの要素は、スクウェア・エニックス版（ねこクラゲ氏作画）のコミカライズの影響を受けている部分もあるという意見もあります。しかし、これは公式に明言されたものではなく、視聴者の印象によるものです。

結論として、アニメ『薬屋のひとりごと』は2種類のコミカライズ版のどちらかをベースにしているのではなく、原作小説を直接アニメ化した作品です。

「薬屋のひとりごと」を見れるVODは

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※使用した写真および文章の一部はアニメ公式サイトより転載しました。

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