正反対な君と僕 第18話「春の手前」考察|タイラズマが「つながりをなくしたくない」と願った日

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第17話で山田と西さんは、ようやく「彼氏」と「彼女」になりました。一方、第18話の東と平は、まだ関係に名前をつけられない場所にいます。

二人の間には、まだ名前がありません。

友達と言えば、少し足りない。
恋と言い切るには、まだ分からない。

それでも東は、クラスが変わることで平とのつながりまで消えてしまうのを恐れます。今回の物語が見つめたのは、恋の始まりそのものではなく、誰かが「いなくなるかもしれない」と想像したとき、初めて見えてくる感情でした。

目次

  1. 第18話「春の手前」あらすじ|恋人になった二人と、名前を持たない二人
  2. 平の笑い方|「キモい」と言われた記憶を東が見つけた
  3. 東の「話聞こか」|助けられた人が、同じ場所へ手を伸ばす
  4. 平の自己否定|「前進どころか後退」と考えてしまう理由
  5. 平の笑い声|「独特だな」が新しい記憶になった
  6. 「まだ帰りたくない」|東が終わらせたくなかったもの
  7. 東の気持ちは恋なのか|「いったいどれなんだろう」の意味
  8. タイトル「春の手前」の意味|咲く直前だから見えるもの
  9. 第18話「春の手前」感想|名前より先に残った約束

第18話「春の手前」あらすじ|恋人になった二人と、名前を持たない二人

山田に彼女ができた――。

教室にその知らせが届いた瞬間、クラスメイトたちは山田を取り囲みます。

「相手は? 私、知ってる人?」
「どっちから言ったん?」
「何回目のデートで?」

祝福という名の事情聴取です。恋バナが始まった途端、みんなの耳が増殖していく。平の「耳、多すぎだろ」というツッコミも追いつきません。

三学期が終わり、卒業式、学年末テスト、ホワイトデー、終業式と、二年生の時間が次々に片づけられていきます。

山田と西さんは一年後の卒業を語り、鈴木と谷はホワイトデーの贈り物を交わす。その一方で、東と平は電車の中で互いの傷に触れ、終業式のあとには二人でファミリーレストランへ向かいます。

表面上は、春休み前の日常です。けれど、その日常の底では一つの問いがずっと流れていました。

クラスが変わっても、この人と話せるだろうか――。

第18話「春の手前」タイトル考察
「春の手前」が示す二人の現在地

冬が終わっても、すぐに花が咲くわけではありません。 東と平もまた、孤立した場所から歩き出し、 関係に名前がつく直前まで来ています。

季節の変化

冬がほどけ、卒業とクラス替えの春が近づいている。

関係の変化

名前のないつながりが、失いたくない存在へ変わっていく。

冬|孤立
傷を一人で守る
「笑い方きっしょ」という過去

平は無防備に笑うことを避け、他人との距離を取ることで自分を守っていました。

心理:見せないことで傷つかない
雪解け|共有
傷を言葉にする
東の「それはしんどいわ」

東は答えを押しつけず、平が抱えてきた痛みを、そのままの形で受け止めます。

心理:分かってもらえるかもしれない
陽だまり|回復
自然な笑いが戻る
ファミレスのタッチパネル

平は笑い方を気にするより先に、東と過ごす時間の中で声を上げて笑います。

心理:ここなら自分を守らなくていい
春の手前|未命名
離れたくないと気づく
東の「まだ、帰りたくない」

恋とは言えなくても、東の中には平との時間を終わらせたくない本音が生まれています。

心理:このつながりを失いたくない
二人の現在地
まだ咲いていない。けれど、もう冬ではない。

告白も、恋人という名前もありません。それでも二人は、 互いを失いたくないと思える場所まで来ました。 「春の手前」とは、止まっている状態ではなく、 変化が静かに始まっている時間ではないか、と考えます。

まだ「春」ではない理由

二人とも感情の正体を言葉にできず、関係に名前をつけていません。

でも
もう「冬」ではない理由

傷を共有し、自然に笑い、離れることを寂しいと思える関係が生まれています。

「春の手前」とは――恋が始まる直前ではなく、心がもう動き始めている場所。
図解:第18話「春の手前」に重なる季節と東・平の関係性

山田の交際報告|平が「よかった」と言えた小さな前進

山田に彼女ができたことを知り、平は自分の反応を少し意外に感じます。もっと複雑な気持ちになると思っていたのに、出てきたのは素直な祝福だったからです。

「山田、よかったな」

タイミングが遅く、山田から「おお、今?」と返されてしまうところまで平らしい。それでも、ここで大切なのは上手に言えたかどうかではありません。

平は、誰かの幸福を自分の不幸へ変換しませんでした。

人と自分を比べる癖がある平にとって、周囲が恋愛や友情の中で先へ進む姿は、自分だけが取り残されるような不安につながりやすいはずです。それでも山田が悩んできた過程を知っていたからこそ、「めでたい」と思えた。

本人は後に「自分は何も変わっていない」と考えますが、すでにこの一言に変化は表れていたのではないでしょうか。

谷との関係を知った平|誤解が解けても自分を責めてしまう

山田の彼女である西さんが、谷と同じ図書委員で、以前から知り合いだったことも明かされます。そこで平は事情を理解しますが、安心するより先に、また自分を責めます。

「俺は勘違いの被害妄想に怯えていただけだった」

誰かを傷つけたわけではありません。誤解を口にして騒ぎを起こしたわけでもない。それでも平は、心の中に浮かんだ不安まで「間違い」として処罰してしまいます。

少し立ち止まってみましょう。

平が苦しんでいるのは、考えすぎることだけではありません。考えた末に、いつも自分を悪者にしてしまうことです。第18話では、この“自分だけを許せない癖”が、笑い方にまつわる記憶を通して掘り下げられていきます。

平の笑い方|「キモい」と言われた記憶を東が見つけた

電車の中で、東が突然尋ねます。

「平って、笑うの我慢する節あるよね?」

東は以前から、平が笑いそうになると表情を抑えていることに気づいていました。本人も意識しなくなった癖を、東は何度も見つけていたのです。

ここには、最後のモノローグへ続く重要な兆しがあります。

東はまだ、平を「そういう意味で好きなタイプ」だとは思っていません。それなのに、平が笑いを飲み込む一瞬を見逃していない。

感情には名前がなくても、視線はもう平を追っていたのではないか、と考えます。

小学生時代の傷|笑うたびに自分を監視するようになった平

平が笑いを抑えるようになったのは、小学生のころ、クラスの女子から笑い方を気味悪がられたことがきっかけでした。

「笑い方、きっしょ」
「友達来てるから、その笑い声やめて」

言った側には、その場限りの軽口だったかもしれません。しかし受け取った平の中では、何年も再生され続けました。

面白いと思う。笑いそうになる。すると過去の声がよみがえり、笑いを止める。本来なら外へ広がるはずの楽しさが、自分の表情や声を点検する時間に変わってしまったのです。

一度でも容姿や声、笑い方をからかわれると、それまで無意識にできていたことが急に難しくなる場合があります。周囲は忘れていても、自分だけは鏡の前で確認し続けてしまう。

平が隠していたのは、笑い声だけではありません。「楽しんでいる自分を見られること」への怖さだったのではないでしょうか。

東の「それはしんどい」|笑い方ではなく、耐えてきた時間を見る

平が事情を話したとき、東は「気にしすぎ」と片づけませんでした。笑い方が本当に変なのか確認しようともせず、最初にこう返します。

「それはしんどいわ」

そして、笑いたくなるたびに嫌な記憶がよぎるのか、それは相当きついことではないかと、平が過ごしてきた時間を想像します。

この順番が大切です。

東は平の笑い方を評価したのではなく、笑うたびに自分を止めてきた苦しさを見つけました。平が欲しかった答えだったかは分かりません。そもそも平自身、なぜそんなことを話してしまったのか理解できていないでしょう。

それでも、誰にも言わなかった痛みに「しんどかった」と名前をつけてもらうと、過去の意味は少し変わります。傷が消えるわけではなくても、一人で抱えてきた時間を、もう一人が知ってくれるからです。

「笑ってる方がいい」|東は平ではなく、傷つけた側に怒った

弱みを話した直後、平は後悔します。

「なんで俺、言わんでいいこと言ったんだろ……」

相手が優しく聞いてくれても、余計なことを話した、面倒だと思われたかもしれない、と心が勝手に撤回を始める。そんな感覚に覚えがある方もいるのではないでしょうか。

しかし東は、平の後悔に付き合いません。

「笑い方キモいって何? 笑ってる方がいいじゃん、誰でも普通に」

平を説得するより先に、そんな言葉を投げた誰かへ怒ります。しかも「俺だったらブロックで殴ってるぞ」と、なかなか物騒です。直後に電車が非常停止すると、「ほら、電車も怒ってる」とまで言い出す。

もちろん電車は怒っていません。非常停止ボタンが押されただけです。

それでも、自分では小さなこととして片づけてきた傷を、誰かが代わりに「許せない」と言ってくれる。その瞬間だけ、世界の一部が平の側へ回ったように見えました。

第18話「春の手前」心理変化
平の笑い方は、どう変わったのか
笑い方を否定された過去から、思わず声を上げて笑える現在へ。 変わったのは笑い方ではなく、笑っても傷つけられないと思える関係でした。
BEFORE|小学生の頃
笑った瞬間が、傷の記憶に変わる
「笑い方きっしょ」
  • 無防備な笑いを、他人の言葉で否定された
  • 笑う前に、自分を監視する癖が残った
  • 傷つかないため、感情を表に出さなくなった
東との
安心できる時間
AFTER|ファミレス
考えるより先に、笑い声がこぼれる
タッチパネルを前に、自然に笑う平
  • 笑い方を整える余裕さえないほど自然だった
  • 東の前では、自分を守る必要が薄れていた
  • 楽しい現在が、傷ついた過去を静かに上書きした
変化を生んだのは「励まし」ではありません
東は傷を消そうとせず、「それはしんどいわ」と受け止めました。 正そうとしない共感が、平にとって笑っても大丈夫な場所をつくったのではないか、と考えます。
東が平を笑わせたのではない――平が東の前なら、自然に笑えた。
図解:第18話「春の手前」における平の心理変化

東の「話聞こか」|助けられた人が、同じ場所へ手を伸ばす

電車が止まると、東は平へさらに尋ねます。

「なんかもっと愚痴ないの? あるでしょ、もっと出しな」

ずいぶん強引です。愚痴があることを前提にした在庫一掃セールのようですが、東には平の話を聞きたい理由がありました。

以前、平が東に向けた「あずまだけがすり減ってる」という言葉です。

「東だけがすり減ってる」|平の言葉が過去の見え方を変えた

東は、人に合わせることが得意です。嫌なことがあっても「まあいっか」で済ませ、自分が少し我慢すれば場が丸く収まるなら、それでいいと思ってきました。

けれど平は、その適応を長所として褒めるのではなく、東だけが削られていると怒ったのです。

東自身は、言われるまで考えたこともありませんでした。ところが平の言葉をきっかけに振り返ると、本当は流してはいけなかったこと、自分だけが我慢していた場面が少しずつ見えてきた。東はそれを「前進してる感あるくない?」と説明します。

つまり、平は東の過去を変えたのではありません。過去を見る角度を変えました。

だから東も、平の中に積み上がったものを聞こうとする。救ってもらった借りを返すというより、自分にしてもらったことを、今度は平にしたくなったのではないか、と考えます。

着地を間違える東|正しい助言より「聞きたい」が残る

ところが東は、話しているうちに自分でも着地点を見失います。

「あれ、何の話だっけ? 着地間違えた」

最終的には「まあ要は、話聞こかって感じ」と、急に雑なまとめ方をして、平からも要約の雑さを突っ込まれてしまいます。

けれど、ここに東の良さがあります。

平の傷を治す正解は持っていない。考え方を変える立派な言葉も用意できない。それでも、聞きたいという意思だけは揺らぎません。

私たちは悩みを打ち明けるとき、完璧な助言を求めているのでしょうか。それとも、話が途中で迷子になっても、自分の側に残ろうとしてくれる人を求めているのでしょうか。

平が「気持ちだけもらっとくわ」と言えたのは、東の説明ではなく、その不器用な意図を受け取ったからではないか、と考えます。

平の自己否定|「前進どころか後退」と考えてしまう理由

東が隣で眠ると、平は再び自分の内側へ沈んでいきます。

昔と違って、良かったことを素直に言ってくれる友達がいる。弱みを打ち明けられる相手もいる。今の自分は、そういう環境にいる。

ここまで考えたなら、「自分も前へ進んだ」と認めてもよさそうです。しかし平は、その結論を退けます。

自分が変わったのではない。周りに恵まれているだけだ――。

周囲に恵まれただけ|自分の努力だけを差し引く平

人との関係は、相手の優しさだけでは成立しません。差し出されたものを受け取ること、自分のことを話すこと、相手の言葉を信じて同じ電車に乗ること。平も、小さな選択を重ねています。

それでも平は、良い変化から自分の分だけを差し引きます。

東が優しいから。
友達に恵まれたから。
環境が変わったから。

謙虚に見えますが、これは自分だけを採点の外へ置く行為でもあります。他人の前進は見つけられるのに、自分の前進は認めない。平の優しさは外へ向き、自分に戻ってくると急に刃物へ変わるのです。

心の傷を眺める時間|自己分析が自傷へ変わるとき

平は、自分が過去を思い返す行為すら疑います。

今の自分を説明するため、後づけで嫌な記憶を引っ張り出しているだけではないか。昔の傷をすぐ手に取れる場所へ並べ、それを眺めて現状に納得しようとしているだけではないか。

そして、その時間を「自傷行為みたいだ」と考えます。

鋭い分析ですが、少し立ち止まってみましょう。

平は、自分を理解するために考えているはずなのに、考えるたび自分を被告席へ座らせています。過去を振り返ることも、傷ついていることも、前へ進めないことも、すべて本人の罪に変えてしまう。

平が手放すべきなのは、過去の記憶ではないのかもしれません。思い出すたびに、現在の自分まで有罪にする習慣ではないでしょうか。

東が思考を止める|答えではなく「今ここ」に戻してくれる人

平が思考の底へ沈みかけたところで、電車は駅に着きます。顔を隠して眠っていた東を起こすと、平の意識はふっと現在へ戻ります。

「あれ? 俺、今何考えてたっけ?」

東は平の問題を解決していません。ただ隣で眠り、起きて、不審者のような格好を平のせいにして笑っただけです。

それでも平は、過去から引き戻されました。

平に必要なのは、考え抜いた先にある完璧な結論ではなく、考えすぎる時間を止めてくれる現在なのではないか、と考えます。昔の言葉を消すことはできなくても、今ここで聞こえる東の声を少し大きくすることならできる。その積み重ねが、やがて平の笑い方を取り戻していきます。

平の笑い声|「独特だな」が新しい記憶になった

駅に着いたあと、東は平をからかい続けます。

顔を隠して眠っていた東は、一人なら不審者だけれど平がいるから大丈夫だと思ったらしい。平は「俺に不審者を託すな」と返し、次第に声を出して笑い始めます。

そこで東は言います。

「確かに、ちょっと笑い方独特だな」

平の過去を考えると、危うい一言です。しかし平は、笑うのをやめません。

拒絶する言葉と、隣にいる言葉|同じ指摘でも意味は変わる

小学生時代の「キモい」は、平を輪の外へ追い出す言葉でした。

笑うな。
こちらへ入ってくるな。
そのままのお前では困る。

一方、東の「独特だな」は、平と同じ場所で笑いながら出てきます。違いを指摘しても、拒絶しない。変わっていると言いながら、隣から離れない。

言葉の意味は、言葉だけで決まるものではありません。誰が、どの距離から、どんな表情で伝えたかによって変わります。

「独特」という言葉が、嫌な記憶を繰り返すためではなく、新しい記憶を作るために使われた。この小さな上書きが、後半のファミリーレストランへつながっていきます。

タッチパネル事件|平が自分の笑い方を忘れた瞬間

終業式のあと、東と平は二人でファミリーレストランへ入ります。

平が自分の内面を真剣に説明している最中、東は店員を呼ぼうとして「すみませーん!」と大きく手を挙げます。しかし注文はタッチパネル式でした。しかも、そうでなくても普通は呼び出しボタンがあります。

気づいた平は、大声で笑います。

東が「何がそんなにおもろいんだ」と急に冷静になり、平が「急に冷静になんなよ」と返す。平はこのとき、自分の笑い方を点検していません。声が変ではないか、周囲にどう見られるかも考えず、ただ東の失敗がおかしくて笑っています。

平が必要としていたのは、「あなたの笑い方は普通です」という判定ではなかったのでしょう。

普通でなくても、笑ったあとに東がまだ隣にいる。その経験こそ、過去の言葉より強い現在になったのではないか、と考えます。

「まだ帰りたくない」|東が終わらせたくなかったもの

三月は、あらゆるものが終わっていきます。

卒業式が終わり、学年末テストが終わり、最後のホームルームが終わる。クラスメイトたちは教室から散り、大人数で撮ったプリントシールだけが二年生の時間を残します。

平は「シールが欲しいわけじゃない」と言いながら、手に入れた一枚を大切にしまいます。

口では否定し、手は残そうとする。

この不一致は、平だけのものではありません。東もまた、自分の気持ちをうまく言葉にできないまま、終わりかけた時間を引き延ばそうとします。

空腹ではない誘い|食事を口実にした「もう少し」

みんなと別れたあと、東は平を呼び止めます。

「飯、食い行かん?」

すぐに言い訳を足します。お腹が空いているわけではなく、もう少し暇というか――そして最後に、本音がこぼれます。

「まだ、帰りたくない」

これは「平と一緒にいたい」という直接的な告白ではありません。それでも、一人で帰りたくないのではなく、平と別れることで今日が終わってしまうのを惜しんでいる。

好きかどうかは分からない。特別な予定があるわけでもない。ただ、もう少しだけ同じ時間にいたい。

帰宅しても、なかなかスマートフォンを閉じられない夜があります。眠くないからではなく、今日の自分を誰にも渡せないまま一日を終わらせるのが、少しだけ寂しいからです。

東の「まだ、帰りたくない」は、そんな気持ちに似ています。休みたいのではありません。誰かとつながっていた今日を、今すぐ終わらせたくなかったのです。

平の「分かる」|同じ場所で立ち止まれた二人

東の言葉に、平は「分かる」と返します。

直後に「分かるって何だ、変な返しをした気がする」と考えますが、変ではありません。平もまた、この日が終わることを惜しんでいたのでしょう。

今のクラスが終わる。東と自然に話せる環境も変わる。一人になれば、再び自分を責める思考へ戻ってしまうかもしれない。

二人の理由は完全に同じではありません。それでも「まだ終わってほしくない」という一点で重なりました。

相手を理解するとは、すべて同じように感じることではなく、同じ場所で少し立ち止まれることなのかもしれません。

東の気持ちは恋なのか|「いったいどれなんだろう」の意味

第18話「春の手前」感情構造
「まだ、帰りたくない」をつくる5つの感情
東の気持ちは、ひとつの言葉では説明できません。 矛盾するように見える感情が重なり、平との時間を終わらせたくないという本音へつながっています。
心配

平が一人で抱え込み、また傷ついてしまわないか気にかかる。

うれしい

自分にだけ見せてくれる表情や言葉が、静かに心へ残っていく。

面倒

考えすぎる平に振り回され、簡単には放っておけない。

楽しい・楽

無理に取り繕わなくても、同じ時間を自然に過ごせる。

すべてが重なった本音 「まだ、帰りたくない」 このつながりを、今は終わらせたくない
寂しい

クラスが変われば、今の距離まで失われる気がしてしまう。

この場面の
読み解き

東はまだ、この感情を「恋」と呼べません。しかし、名前が分からなくても、 平とのつながりを失いたくないという願いは、 すでに言葉より先に表れていたのではないか、と考えます。

気持ちに名前はなくても――「離れたくない」という本音は、もうそこにある。
図解:第18話「春の手前」における東の複合的な感情

食事を終えた別れ際、東は次のクラスで嫌なことがあれば愚痴を聞くと平へ伝えます。

クラスが変われば、今までのように話せる保証はありません。だから東は、次に会う理由を作ろうとします。

けれど、東が欲しいのは平から頼られることだけではありませんでした。

「また、話聞いてもらっていい?」

東も平を必要としています。

どちらか一方が救うのではなく、互いに話を聞く。うまく話せない日は、着地を間違えてもいい。タッチパネルを見落としたら、笑えばいい。その関係を次の季節にも残したいと、東は初めて言葉にしたのです。

「好きなタイプではない」|理想より先に距離が縮んでいた

東は、平が「そういう意味で好きなタイプ」ではないと考えます。

ドラマの中で東が惹かれるのは、我が強く、少し強引で、「俺だけ見てろ」と言うような男性です。一方の平は慎重で、人の視線を恐れ、自分を責めてばかりいる。条件だけを見れば、確かに好みから外れています。

けれど人への感情は、理想の条件を確認してから始まるのでしょうか。

好きなタイプだったから近づいたのではなく、話して、傷を知り、一緒に笑ううちに、距離があると寂しくなった。東が戸惑っているのは、頭で思い描いていた「好き」と、実際に育った感情が一致しないからではないか、と考えます。

心配、面倒、楽、寂しい、うれしい|答えは一つではない

東は、平への気持ちを順番に並べます。

心配だったり。
面倒だったり。
ほかの人より楽だったり。
距離があると寂しくて、近づくとうれしい。

そして問いかけます。

「今、そわそわするこの気持ちは、いったいどれなんだろう?」

おそらく答えは、一つではありません。

平は心配になる。考えすぎるところは面倒でもある。それでも他の人より一緒にいて楽で、離れれば寂しく、近づけばうれしい。矛盾して見える感情が同時に存在するからこそ、一人の人間を特別に思うのではないでしょうか。

ここで作品が「それは恋だ」と答えないことに意味があります。東が確かに理解できたのは、恋かどうかではなく、「つながりをなくしたくない」という一点だけでした。

名前は、まだなくていい。

気持ちの正体が分からなくても、離れたくないという願いまで疑う必要はない。第18話は、そう伝えているように見えます。

タイトル「春の手前」の意味|咲く直前だから見えるもの

今回のタイトルは「春」ではなく、「春の手前」です。

桜はまだ咲ききっていない。新しいクラスも始まっていない。平の傷も消えておらず、東の感情にも名前がついていません。

すべてが途中です。

終わりと始まりの間|二人が何者でもない時間

三月は、終わったものと、まだ始まっていないものの間にあります。

二年生は終わった。けれど三年生にはなっていない。今までのクラスには戻れないのに、次の居場所もまだ分からない。

東と平の関係も同じです。

ただのクラスメイトより近く、恋人ではない。友達と言えば間違いではないけれど、それだけでは少し足りない。

春の手前とは、二人が何者なのか決めないまま、同じ場所に立っていられる短い季節なのではないか、と考えます。

「咲きそう」で止める演出|変化を完成させない誠実さ

作中には「あ、咲きそう」という言葉が出てきます。

「咲いた」ではありません。

平が大笑いできたからといって、長年の傷が消えたわけではない。東が離れたくないと感じたからといって、すぐに恋だと理解できるわけでもありません。

変わっていないようで、変わっている。
変わったようで、まだ元の自分も残っている。

人の変化は、昨日と今日を境に完成するものではありません。咲きそうなつぼみを、無理に開かせず見守る。その距離感が、この作品の優しさではないでしょうか。

第18話「春の手前」感想|名前より先に残った約束

――ファミリーレストランの片隅で、平の笑い声が響く。

かつて誰かに止められた笑い方を、平は東の前で取り戻しました。東は平を治したわけではありませんし、平も東の感情に答えを与えていません。

それでも二人は、少し楽になっています。

「それはしんどい」と言うこと。
相手の代わりに怒ること。
話の着地を間違えること。
隣で眠ること。
帰りたくないと誘うこと。
タッチパネルを見落として、笑わせること。

癒やすとは、きれいな言葉で誰かを立ち直らせることではなく、不完全なまま同じ時間にいることなのかもしれません。

そして最後に東が差し出したのは、告白ではなく、「また話を聞いてもらっていい?」という次の約束でした。

人とのつながりを残したいとき、私たちは用事を作ります。相談、愚痴、食事、帰り道。「会いたい」と言う代わりに、小さな理由を一つ置くのです。

借り物の理由でも、次に会えればそれでいい。

平は「うん、頼むわ」と答えました。二人は恋人にはなっていませんが、次の季節にも互いを頼っていいという約束を手に入れたのです。

誰かの機嫌を読み、求められる笑顔を差し出して一日を終えたあと、自分の中に残ったものが寂しさなのか、疲れなのか、うまく分からない夜があります。

そんなとき、無理に一つの名前を選ばなくてもいいのでしょう。

心配でも、面倒でも、楽でも、寂しくても、うれしくてもいい。それらが全部重なったまま、なくしたくないと思えるつながりがあるなら、今はその感覚だけを信じてみてもいいのではないでしょうか。

春は、まだ来ていません。

けれど東と平はもう、次に会う理由を持っています。名前のつかない気持ちも、急いで片づけず、そっと隣に置いておきましょう。

原作は少年ジャンプ+連載、阿賀沢紅茶さんによるコミックス全8巻で完結済み。第2期は7月5日よりMBS・TBS系全国28局ネットで放送中。第1期は2026年1月放送で、「マンガ大賞2024」第7位、「みんなが選ぶ!!電子コミック大賞2024」男性部門賞などの受賞歴があります。

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毎週日曜 午後5時30分より最速配信
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びわおちゃん

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Web上の隠れ家マガジン「びわおちゃんブログ&アニオタWorld」編集長。
深夜アニメの考察・感想を書き続けて数年。
『正反対な君と僕』では、鈴木の顔芸に思いっきり笑い、谷くんの「ブレない全肯定」に泣かされている一人です。
「好きなものに、正直な大人でいたい」をモットーに更新中。

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2026年7月放送開始。日曜夕方5時は、大人の鎧を下ろす時間。
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