日本株でGO! №1
大日本印刷(DNP)の株価急騰の背景
「PBR1倍宣言」のインパクトで株価急騰
日経新聞に大日本印刷が「PBR1倍宣言」 始まったJTCの逆襲という記事が出ていました。
後々振り返ると、「JTC」が変わる一つのターニングポイントだったと投資家に記憶されるだろう。大日本印刷が9日公表した新しい経営目標のことだ。
というエモーショナルな冒頭で始まる記事です。
何だろうなと思い、読み続けると次の2点が挙げられています。
- 世界最大のアクティビストである米エリオット・マネジメントの株取得
- PBR1倍割れの企業に「改善計画」の開示を強く求めるという東京証券取引所の新方針
これら2点についてお話しする前に、大日本印刷(以下、DNP)の株価が急騰していることに触れます。
DNPの日足チャートです。直近安値2,497円を1月17日に付けたのち、大きく値を上げたことがわかります。
この理由は何だったんでしょうか。
1月25日:物言う株主によるガバナンス圧力
まず1月25日に窓開け後に大きく陽線を立てて株価が急伸しています。前日の終値が2,613円、25日の終値は3,000円です。14.8%の急騰です。
この日の状況についてFISCOが次のように伝えています。
急伸。米ヘッジファンドのエリオット・マネジメントが同社株式の5%弱を取得して、第3位の株主になったと英紙で報じられているもよう。同ファンドはアクティビストとして著名で、最近ではテクノロジーに特化した企業に投資しているとされている。エリオットは過去数カ月で投資を増やし、現在の出資額は約3億ドルとみられているようだ。一段の買い増しや企業価値向上策への圧力が高まるとの期待が先行へ。
FISCO【注目銘柄ダイジェスト】
米国のヘッジファンドがDNPの株式の5%弱を取得して第3位の外部株主になったと報じられています。
有名なヘッジファンドが株主になることでDNPのコーポレートガバナンスについての改善圧力が強まると期待されたのです。
株主にとって好感できる施策が出てくることを期待した株価の先取りだと考えることができます。
もちろんその時点ではDNPが何らかの声明を出したわけではありません。
2月10日:「PBR1倍宣言」のインパクト
DNPは2月9日に「DNPグループの経営の基本方針」を公表しました。
そこには『ROE10%を目標に掲げ、PBR1.0 倍超の早期実現を目指します。』と明記されています。
具体的には「事業戦略」「財務戦略」「非財務戦略」の3分野にわたり、持続的な罷業価値、株主価値の創出を行い、「ROE10%とPBR1.0倍超の早期実現を目指す」表明しています。
特に財務戦略については「過去最大の自己株式取得を計画する」明記されています。
自己株式取得は株価引き上げの推進エンジンです。市場に流通する株式数が減少することで理論的には株価が上昇するからです。
この発表の翌日、2月10日のDNPの株価は3,745円(前日終値3,185円)にまで急騰しました。
「PBR1倍超宣言」のインパクトは株価17.6%上昇という大きなものでした。
PBR(純資産倍率)=株価/1株当たり純資産です。
これを1.0倍にするためには株価を1株当たり純資産を超える必要があります。
DNPの株価は以下の水準でした。
- 1株当たり純資産は4,058円(前期実績)
- 9日の終値は3,185円
- 10日の高値は3,745円
つまり、2月10日の株価急騰はPBR1.0を下回っている現在の株価3,185円の上振れ余地を埋めようとする投資家の動きだったたわけです。
一方、ROE10%の表明は株価の上昇の要因にはなってないでしょう。
ROEは「Return On Equity」の略で、「自己資本利益率」のことです。
計算式はROE(%)=当期純利益 ÷ 自己資本 × 100です。
これは人為的に操作できますよね。
当期純利益は各種控除で操作可能です。分母の自己資本部分を減少させれば数値を挙げることもできます。
ROE10%の目標は自己資本が健全であれば立派な目標ですが、自己資本が毀損されても皮肉にも達成してしまうからです。
PBR1.0倍超というDNPの宣言により、株式を購入したヘッジファンドの求める方向の施策が出、株価が素直に反応したと言えます。
東京証券取引所の新方針
先ほどの日経の記事の中には「PBR1倍割れの企業に「改善計画」の開示を強く求めるという東京証券取引所の新方針」という文言も出ていました。
この点についての詳細は新便記事の中では語られていませんが、具体的には次のようなことです。
PBR1倍割れとは、株価が企業の純資産価値(帳簿価額)を下回っている状態を指します。 東京証券取引所は、このような状況にある企業に対して「改善計画」の開示を強く求めます方針を打ち出しました。
具体的には、PBR1倍割れに陥った企業に対して、以下のような改善計画の開示を求められています。
- 株主還元の見直し
- 支払金の増配、自社株買いの実施等
- 業績改善策の明確化
- コスト削減、新規事業の立ち上げ等
- 財務体質の強化、資本政策の見直し等
- 経営陣の責任と責任者の名前
- 企業の経営陣が責任を持ち、具体的な責任者名を公表する
東京証券取引所は、企業がPBR1倍割れに陥ると、投資家からの信頼性が低下し、相場の下落や資金調達の難しさなど、さまざまな問題が生じています。そのため、企業が適切な改善計画を示し、積極的に改善に取り組むことが求められています。
この東京証券取引所の新方針は企業価値を高め、コーポレートガバナンスを向上させることに寄与するものですが、この方針に対応できない企業は上場基準を満たさないと判定される恐れもあります。
そう判定される恐れが市場に伝われば株価は暴落することが容易に予想されますね。
DNPの具体的戦略はリチウムイオン電池用バッテリーパウチ
DNPの強みとしてDNPに投資した大手ヘッジファンドは何をDNPと強みとして評価しているのでしょうか。日経新聞記事では次のように書かれています。答えはEV用リチウムイオン電池の包装材です。
「なぜこれほど競争力の高いビジネスを持つ優良企業の株が信じられない安値で放置されているのか」。複数の関係者によると、エリオットは1年以上にわたる詳細な調査を経て大日印の株を取得したという。
電気自動車(EV)用リチウムイオン電池の包装材で世界シェアを独占するような高い競争力を評価。100社を超える政策保有株をはじめ多額の不稼働資産を売って成長事業の投資や株主還元に資金を回せば、株価に潜在価値が反映されるとみているもようだ。
リチウムイオン電池用バッテリーパウチと言います。
世界ナンバーワンの製品を有する同社の力を投資ファンドは高く評価しました。
変化する日本株への投資環境
JTC逆襲の「のろし」は上がったのか
今回の記事のタイトル後半は「始まったJTCの逆襲」です。そして記事を「JTC逆襲の「のろし」は上がった。」で占められています。
JTCとは何か。記事中でも説の明されていますがJTCとは「ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー」の頭文字をくっつけた言葉でネガティブな意味合いでよく使われます。日本の伝統的な大企業に共通する、内向きで硬直的な組織運営や企業文化を皮肉る時に使われることが多い言葉です。
記事では「のろしは上がった」と言い切っていますが僕にはそうは思えません。
別にDNPがというわけではなく、日本企業という大きなくくりの中でJTCを打破する勢いのある企業群を感じられません。
きっと僕の勉強不足による認識のずれなんだと思いますが、今後、今回のような記事を書き続けてみることで「のろし」を感じられたらいいなと思います。
予測できない未来をいかに引き寄せるか
ぼくの「のろし」に対する違和感をもう少し具体的に説明します。
今の未来は「予測できない未来」だと思っています。
20年くらい前、Windows95の時代には10年後の社会がどうなるか、努めている会社はどうか、自分は?というイメージは概ね得られていたと感じています。
でも、今どうでしょうか。10年後はおろか5年後に世の中がどうなっているか言い当てることは非常に困難と言えませんか。
車の話でも2035年には化石燃料を使用した自動車は走ることができなくなります。
それまでの間、自動車産業に何が起こり、どの企業が生き残り、どの企業が淘汰されるのか。
単純にトヨタは大丈夫、とか呑気なことを言ってられません。
株価はこんな感じで冴えない状況です。
今、他社に先んじるためには「予測できない未来をいかに引き寄せるか」が鍵だと思っています。
それは個人投資家でも同じですよね。
今回のDNPの株価の急騰は「予測できない未来」に対する一つの賭けだと言えるでしょう。
そういう意味では兆しという「のろし」は上げられたのかもしれません。
☆☆☆☆
今回はここまで。それではまたね👋
DNP株、その後吹き上がりましたね。
【アニメ関連はこっちから】